【前回の記事を読む】2500万人もの死者を出した正体不明の病原体「スペイン風邪」が解明されるまで

ウイルスの発見

電子顕微鏡の性能があがるにつれて、多くの濾過性病原体が続々と確かめられて、これら一群の超微細な病原体はウイルス(virus:ラテン語の蛇毒の意味)と、よばれるようになりました。

スペイン風邪の病原体は、インフルエンザウイルスと名づけられ、病魔が去った後も、世界各地にA、B、C型とそれぞれの亜型(サブタイプ)の変異ウイルスが現れるので、電子顕微鏡によって毎年、変異ウイルスの実体を分析する研究が行われています。

電子顕微鏡の像を写真撮影する技術が開発され、1938年の秋に、ドイツの自然科学学会で、初めてウイルスの写真が一般公開されました。これは新聞などでも報道され、それまで闇に包まれていた恐るべきウイルスの正体が明らかにされて、科学者たちだけでなく一般の人の間に、もの凄い反響がおこりました。

その後、電子顕微鏡の解像力が高められ、様々なウイルスの写真が公開され、図表1の天然痘ウイルスのように多くのウイルスの実体がより明確に判明しました。特に、バクテリオファージは、図表2のようなオタマジャクシの形をして、泳いで細菌に潜入するような巧妙な姿には、科学者たちも驚かされました。

[図表1]電子顕微鏡によるウイルスの姿
高倍率の電子顕微鏡の発明によって、科学者の視界がさらに超微細な世界に拡大し、これまでは正体不明であったウイルスの姿を見ることができました。
天然痘ウイルス
天然痘ウイルスは、ポックスウイルス科に属しウイルスの中では大型のDNA ウイルスで、昔から疱瘡とよばれて世界中の人に恐れられ、長期にわたって多くの死亡者がでました。
1958年WHO が天然痘根絶計画をたてて世界によびかけ、ワクチンの普及によって制圧でき、1980 年に根絶宣言がだされました。これは人為的にウイルスを根絶できた唯一の好例なのです。
[図表2]バクテリオファージ
1917年にデレルは、赤痢菌を溶解して食うウイルスを発見してバクテリオファージと名づけました。単にファージともよばれ細菌だけに感染するウイルスです。
バクテリオファージの核酸はDNAのものが多いがRNAのものも少数あります。ファージの大きさは10nmから100nmほどで、ウイルスの中ではかなり進化した独特の形態で、オタマジャクシ形のほかに楕円形や月面着陸船形のものもあります。
図のファージラムダは腸内の細菌に吸着し、侵入模式図のように、オタマジャクシ形のファージは、細菌にとりついて尾を細菌体内に突き刺して頭部に入っているDNAだけを注入して、このDNAが菌細胞の機能を利用して増殖します。