【前回の記事を読む】1938年、闇に包まれていたウイルスの正体が明らかになった…

ウイルスの発見

⑶ウイルスは、どこからやって来るのか

[質問]「ウイルスはどこで発生し、どのようにして人に感染拡大していくのですか」

ウイルスは、超微小で種類が多く、細胞に侵入する前は無生物状態で細菌のように栄養を摂取する必要がないので、輸出入の貨物など様々な物体に付着して地球上のどこにでも運ばれていきます。野生動物の体内には、様々なウイルスが潜んでおり感染し発病して死亡する動物もいますが、野生ゆえに免疫力が強く無症状なものが多く、野生動物は、潜伏感染した状態でウイルスをもったままで大多数が活発に動き回っています。だが、免疫力の弱い人間に感染すると、たちまち人から人へと猛烈に感染拡大して恐ろしい病魔と化すウイルスがいるのです。

世界中で話題になったエボラウイルスは、西アフリカで発生し、人に感染して運ばれ猛烈に感染拡大し、感染すると全身から出血をともない致死率の極めて高いウイルスなのです。また、エイズウイルスのように、人に感染して免疫系を破壊して免疫不全をおこして、とんでもない事態に陥らせるものもあるのです。これらは、地域住民たちの接触や移動によって運ばれて感染拡大したのです。

最近の研究では、海水中には様々な種類の海洋ウイルスが驚くほどいることが分かりました。秋から冬にかけて発生したノロウイルスは、生牡蠣など獲りたてで活きのいい貝類でもウイルスに感染しているものがあり、これらを生で食べると、ノロウイルスが人体内で盛んに増殖して食中毒による嘔吐や下痢などの感染性胃腸炎を起こし、高齢者や病弱な人は重症化する場合があります。

このように、新鮮な魚貝類によって運ばれてくるものもあります。ノロウイルスは経口感染が主なので、発生期には旅館や食品を扱う店で発生すると集団感染が起こり拡大する危険があるため、食品を扱う店や旅館などの従業員には手洗いの徹底と、調理器具などの衛生管理を励行させることが大切です。ノロウイルスは、熱に弱いので発生期の秋から冬の牡蠣や貝類は加熱して食べることが必要です。野生動物の中でも鳥類は感染しても無症状なものが多く、行動範囲が極めて広く飛び回って糞をまき散らすので、野生の鳥類はウイルスの運び屋で、ウイルスを感染拡大させる動物のトップに位置づけされています。

また、コウモリは、ウイルスの好む適度の湿気と温度変化の少ない薄暗い洞窟を住み処として、繁殖力が旺盛で巣では多数が密に群れをなして生息しており、夜間に飛び回ってゴキブリ、蚊、蝿などウイルス源の昆虫を捕食しているので、コウモリの多数が潜伏感染しています。だが免疫力が強いので無症状のものが多いのです。だが、人への感染源として危険視されています。

最近、中国・雲南省昆明の銅山の廃坑にコウモリの巣があって、廃坑に入った人たちが呼吸器障害をおこして死亡したので土地の人々は恐れをなして、そこには近づかなくなったという話を衛生局員が聞いて、後日、調査員がその廃坑に行ってコウモリを捕獲し、その体内から293種ものウイルスを検出しました。

近年、その中にコロナウイルスの遺伝子配列に96%も重なる近縁種ウイルスが見つかったという論文が、英科学誌ネイチャーに発表されました。コロナウイルスは、コウモリが好みの動物らしく、この一群のウイルスはコウモリコロナウイルス科と命名され、その亜種が沢山見つかっています。以前に流行したSARSコロナウイルスも、中国に生息するコウモリに由来のものでした。このようにウイルスは、発生源の動物から鳥類などの移動動物や人に感染して遠くまで運ばれてくるのです。