私はたまらずに口をはさんだ。

〈以前に戻りたいのですか? 母親のそばで暮らしていた頃に〉

「他に何があるっていうんですか!」

悲鳴のような答えが返ってきたが、私はひるまなかった。

〈あなたは自分で自分の面倒も見られるし、厳しいことに耐えて仕事もできてきました。母親の仕打ちに打ちひしがれながら、目標を立てて努力して、自分の道を切り開いてきました。優しくされると崩れてしまうという新しい弱点がわかったのも、あなたが前に進んできたからです。それに気づくことができたのだから、それに負けずにやっていけるようになります〉

彼女は顔を覆っていたが、全身でわたしの言葉に耳を傾けているようだった。

〈人から否定される恐れと、人に受け入れられたくて仕方ない気持ちを抱えながら、精一杯頑張って、傷ついて、とても可哀想だったけれど、打ちひしがれるのはそれくらいにして、また歩き出しませんか〉

〈母親にむごいことをされながら、頑張れたあなたです。これを乗り越えることくらい、つらいけど、可能ですよ〉

気がつくと私の頬を一滴の涙が伝っていた。彼女は椅子にもたれこむように深く腰掛け直し、手を自分の前で合わせて、上の方を見上げながら私の話を聞いていた。私は声に力を込めて続けた。

〈優しくされることに慣れていなかっただけで、ひどい扱いを受けるのに慣れすぎていただけで、それがわかればあなたは普通にやっていくことができます、それだけ自分のことを考えているのだから。あなたはいけない子でも何でもない、正直で誠実です。つらすぎて少しめげたけど、もう少し、可哀相だけど、もう少し我慢してカウンセリングを続けませんか〉

彼女はうなずくこともせず、上を見上げたままだった。だが、否定もしなかった。