「あーはっははははは! それ、奏空が今朝見た夢の間違い? 出会い頭に……キス? まるで少女マンガみたい、あはははははっ!」

お腹を抱えて笑う友達のちなみを、これでもかというくらいにう~っと睨むのは奏空。こんなに笑われるくらいなら言わなきゃよかった、と激しく後悔してしまった(どうせ噂が流れ、知られることにはなるだろうが)。

放課後、高校の近隣に店を構えるハンバーガー店では、夏の制服姿の高校生たちが増える中、店内の一角でも女子高生のトークで盛り上がる。

メンバーは、奏空とはクラスメイトのちなみ。ブロンドカラーの髪をハーフアップにまとめている、お嬢様とギャルを混ぜたような見かけの女子だ。左手首の赤いブレスレットがキラリと輝く。そして奏空とは部活仲間の、長身が目立つベリーショートヘアのフミもまたメンバーの一人。

おしゃべりを楽しんでいた彼女たち三人だったが、奏空がいつもと変わった様子でいたことをツッコまれ、昼休みの一件を不満顔いっぱいで白状したのだが。ごめんごめん、とウインクして謝るちなみに、奏空はやれやれと肩をすくめて、

「ぶつかるのはしょうがないよ? けど、キスってなに? 人にぶつかってキスなんてフツーありえる? ありえないよね?」

ぱくりとハンバーガーを頬張り、ストローでちゅーっとメロンソーダを吸った奏空の文句。男の風上にも置けないあの反論を思い出すだけでイライラが止まらない。

「まあまあ、偶然の事故ってことで。でもさ、二宮くんって結構なイケメンじゃない? 女顔で、髪もオシャレだし。メンクイ女子の奏空にはどうよ?」

「誰がメンクイだっつーの」

「告ってくれた男子を軒並み振って、『顔が好みじゃない』って理由で嘆いてるのはどこの誰ですか?」

「……」

ばつが悪そうに押し黙る奏空。

「話を戻すけど、二宮くんって頭もすごくいいとか。考査もあのコースで学年上位の常連だって。いい物件じゃん。今回のキスも、案外恋のきっかけになったり、なーんちって」

「ふーん」

ちなみから語られる情報を耳に、奏空は生返事をする。だって、顔と頭がいいことは、

「知ってる、あたしも」

二宮玲人─。その顔立ちは人の目を引ける程度に整っており、耳元にかかる栗色の髪は整髪料で丁寧にセットされている。頭脳明晰で眉目秀麗な人。しかし自発的に目立とうとするタイプではなく、窓辺からひっそりと景色を眺める彼の様相には翳りが窺え、喜びや楽しさを知らずに今日まで育ってきたのではないか、と唯一同じ教室で過ごした中学二年の頃には思ったりもした。

どれもこれもが今さらよみがえった、忘れかけていた記憶の断片だけれども。

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