1章 まやかしの織姫と彦星

(知ってるよ、倉科さんのことは)

倉科奏空─。二重まぶたの大きな目が可憐な、学年を問わず異性に人気のある女子だ。キュートな顔立ちで、すれ違うたびに目を引かれるのは事実。人当たりもよく、友達も多い。

『Ⅱ類』の彼女は女子バスケ部に所属しているのだが、その腕前はかなりのもので、スポーツ推薦で入学後、強豪校にもかかわらず先輩を差し置いて即レギュラーの待遇が与えられたらしい。昨年はU16日本代表のメンバーだった。つい最近の県大会でもチームを優勝に導き、二年ぶりのインターハイ出場も決めたそうだ。

中学二年の頃、彼女とクラスメイトの関係にあったときに思い知らされたことがある。それは─、彼女と僕は真逆の人間。まさしく天才という存在。倉科奏空は才能に溢れた、住む世界の違う人間なのだ。クラスメイト時代にほとんど会話する機会がなかったのも、おそらく互いが“違うモノ”と感じ取っていたからだろう。

「それで玲人、どうする?」

先生の声が、玲人の意識を呼び戻す。

「記事の執筆、やっぱり引き受けられない?」

玲人は何秒か思考を巡らせて、「辞めるって伝えたタイミングも急でしたし、わかりました。それを最後の仕事にさせてください。いい記事にしてみせます」

下駄箱から靴を取り出し、代わりに上履きを置いた玲人。暗い影を落とした昇降口を通り、部活動の片づけに勤しむ生徒の脇を抜け、ふと足を止めた。

「来月か、七夕は」

背丈を超えて伸びる笹の葉が、校舎の壁に掛けられた格好で飾られている。青、赤、黄、白、黒という五色の短冊が吊るされていた。

『幸せになれますように』『志望校合格!』『レギュラー奪取!』などの願いの中、『恋人ができますように』なんていう願いもあった。どれも短冊の色に秘められた意に沿わない願いが書かれていて、少々残念な気がしてしまう。

(まあ、願いを天の神様にするものだと勘違いしてた僕が偉そうに指摘できないけど)