便所の汲み取り(2011年5月)

我が家では、3ヵ月に1回くらいの頻度で、便所の汲み取りを行っている。大抵の家では、水洗便所で下水処理されているか、もしくは溜めこみ式でし尿処理業者に依頼して汲み取ってもらうというのが一般的であろう。しかし、我が家は山奥で下水は通っていないし、業者にも依頼しない。自分たちで、手作業で汲み取って敷地内の肥溜めに運んでいるのだ。

その汲み取りの様子は、よく江戸時代の暮らしぶりを紹介した絵などに出てくる様相と全く同じである。肩に棒を担ぎ、その両端に木製の樽をひもでぶら下げて歩く。樽の中には、ひしゃくで汲み取ったウンチやオシッコを入れる。僕は中学生頃からずっとこの作業を定期的にしている。

昔は祖父や親父の仕事であったが、ある程度、がっしりとした体つきになってきた頃に、だんだんと僕の仕事になってきた。最初は、親などに言われて仕方なくやっていたのだが、この汲み取り作業は本当に嫌で嫌で仕方がなかった。

なんといっても、まず臭い。ウンチやオシッコをかき回すのだから、臭いのは当たり前なのだが。3ヵ月分の溜まったし尿を運搬し終えた頃には、体中に臭いがしみ込んでいて衣服も臭くなっている。その状態で外部の人と接触したりしたら、おそらくひきつった表情で後ずさりされるであろう(笑)。

そして、臭いだけでなく、この作業は重い。樽にし尿を満杯に汲み取るとおそらく40キロくらいの重さになる。これを二つ担ぐと80キロになり、僕はあまり力があるほうではないので、それを担いで運ぶのは相当に無理がある。だから、いつも満タンにはしないで、2割くらい減らして汲み取っている。それでも樽二つで60キロくらいにはなるから、重くてヒーヒー言っている。

我が家から肥溜めまでは数十メートルで歩いて1分くらいなのだが、3ヵ月分のし尿の量は相当に多く、大体20往復くらいしなければならない。全部汲み取り終わるには、時間にして大体2時間はかかる。夏場の暑い最中などにこの作業をしたら、本当に最悪である。ダラダラと汗もかいて、臭いもすごい。額から滴り落ちて、時々口の中に汗が入るときなどは、なんか悪臭の成分が汗に混じっている気がしてすごく嫌な気分になる。