【前回の記事を読む】「無農薬カボチャ」が全量焼却処分となってしまったワケ

第2章 農業・狩猟

悲しきカボチャの運命(2006年10月)

実際、今回は函館で起きた事件なので、道南全体に波紋が広がり、農協は自主的に全軒検査を行い、当八雲地区のカボチャ栽培農家においても、全件検査が実地された。当然我が冨田農園も大量にカボチャを作づけしているので、検査対象である。

函館の問題が起きた二日後に農協職員が我が家のカボチャを5個ぐらいもっていった。我が家もカボチャには一切農薬をかけていないのだが、そんな30年も前の薬が検出されたりするのだから、安心できたもんじゃない。うちのじいちゃんや親父は

「へプタなんだかっていう薬なんて知らないし、使ったこともない」

と言ってはいたが、それでもなんか変なヤバイものでも検出されたりしたらどうしよう、と内心ビビっていたようだ。

結局、10日後くらいに検査結果がFAXで送られてきたが、八雲地区においては全軒とも検出されなかった、と記されていて家族ともどもホッと胸をなでおろした。

しかし、今回の件はそれだけで問題が終わったわけではない。風評被害が残ってしまっているのである。

「こんな問題が起きたから函館地区の野菜はみんな危ない」

と市場や消費者がイメージしてしまい、カボチャだけではなくいろんな野菜にも影響を及ぼしているらしい。価格が下落したり、お客さんが函館育ち農産物を敬遠しているらしい。最近になって、その風評被害も時間とともに薄れてきた感があるようだが、いずれにしても道南の農家にとっては大きな痛手となった。

そもそも、なぜ今年になってこんな問題が起きたかというと、今年から始まったポジティブリスト制度による影響なのである。この制度はどのようなものかというと、簡単にいえば、より食の安全を意識するために、残留農薬基準値を以前より厳しく見る、といったものである。消費者にとっては、より安全なものが求められるのでいい制度であるし、生産者にとっても、安全な農産物を作ろうという意識をつけさせられるのでいいと思うのだが、この制度には課題も残っている。

例えば、今回のように栽培農家は安全を意識して栽培していても土壌のせいで、いわば不可抗力によってひっかかってしまう危険性がある。あと、現在のところ、各自治体によって基準値が違うので、地元ではパスできても、出荷先ではひっかかってしまう、という問題もあるのだ。

今回のポジティブリスト制度だけではなく、政府が最近作っている決まり事はなにか場当たり的な感じで、中身がしっかりしていないものが多く感じられる。国民を先導していく立場におられる方々にはもっとしっかりしてもらいたい。でないと、焼却されたカボチャたちも成仏できなくて、かわいそうであろう。