角を曲がろうとしたその瞬間、双方が互いの身体に誤って衝突し、

「やっ」

「あっ」

否─、衝突だけならば問題なかったのかもしれない。不運にも玲人は小石を踏みつけてバランスを崩し、一方の奏空もまた膝を崩しかけて足元を悪くする。

「キャッ」

「うわっ」

突拍子もない声を上げた二人。奏空は背を反らして天を仰ぎ、膝が折れた玲人は前のめりに倒れかけ、さらに彼は奏空の両肩を掴み、その結果─。

「─んんっっ!?」

「─ッッッッ!?」

顔に覆い被さる顔。そして重なる─唇と唇。身体同士のそれとは全く別ものの柔く甘い衝突は、二人の脳の働きを一瞬で奪い取り、稲妻のごとき刺激を走らせる。

「……っ」

「……」

奏空は目をぱちくりさせて、玲人は唖然茫然の面持ちでその瞳に視線を重ねる。唇に触れる温もりは、たしかに相手の唇そのもの。異性の匂いがお互いの鼻孔をくすぐる。やがて二人は唇と唇を離し、玲人は奏空の肩から手を引いて、奏空は無言で後ろに退き、

「……え、うそ」

「は、は……はぇ?」

何が起きたのかさっぱりといった調子で、二人は真向い同士の呆けた顔を見つめる。そしたらそこにいたのは、

「ちょ……って、……二宮くん!?」

「く、……倉科さん!?」

それぞれが名前を呼ぶと、両者の間に気まずい空気が流れてしまう。

「……」

「……」

喉につっかえたように、二人とも口から言葉がなかなか出てこない。

「あ、あう……あ……っ。い、いま……キキキキキスして……!?」

「キッ、キス!? いや、何かの間違えじゃ……っ!!」

やっとのことで声が出たものの、たった今、目の前で起きた現実を噛み砕くように、しばらく放心状態で硬直してから、

「ちょっと、信じられない!! な、な、なにしてくれるの!? そんな、初めてが……っ」

先にアクションを起こしたのは奏空のほうで、頬を真っ赤に染めて喚き散らす彼女の瞳は、これっぽっちも焦点が合っていない。

【前回の記事を読む】【小説】少女は物憂げにまぶたを閉じた。また、夢を見るために