暫定委員会の結論は原爆の無警告投下

そして、一九四五年五月三日、暫定委員会の八人の正式委員が決まりました。委員長はスティムソン陸軍長官、委員長代理ジョージ・ハリソン特別補佐官、ラルフ・バード海軍次官、ウイリアム・クレイトン国務次官補、科学行政官のバーネバー・ブッシュとジェームス・コナント、カール・コンプトンMIT学長、国務長官予定者のジェームズ・バーンズが選ばれました。

委員会の下に置く科学顧問団に、ロバート・オッペンハイマー、アーネスト・ローレンス、アーサー・コンプトン、エンリコ・フェルミの四人が選ばれました。

暫定委員会の最初の会合は、一九四五年五月九日に行われましたが、実質的に決定を行ったのは、五月三一日の会合で次のような議論が行われました。

原爆で軍事目標を破壊することはこれまでの通常の爆撃と効果に違いがないという指摘を受けて(このような指摘が出るところをみると、八人の委員ですら原爆がよくわかっていなかったようです)、オッペンハイマーは、原爆は破壊だけでなく高く立ち上る火球の視覚的効果と中性子線が生物に与える効果が大きいことを強調しました。

こうした原爆の効果に関する議論を踏まえ、委員会では「可能な限り多くの住民に、深い心理的印象を与えることを模索すべき」であると合意されました。

また暫定委員会では、日本には事前の警告を与えるべきでないことも合意されました。バーンズは戦後、その理由について、事前に警告を行えば意図的に運ばれた捕虜が犠牲になるかもしれないことや、爆発が失敗に終わるかもしれなかったことを挙げていました。

産業界の代表を招いた六月一日の暫定委員会では、午後になってスティムソンが席を外しましたが(大統領に呼ばれホワイトハウスに行きました)、前日の合意は踏襲され、バーンズの提言によりこの問題に関する委員会の最終決定ともいえる結論が出されました。

バーンズは、次のように陸軍大臣が勧告すべきであると提言し、委員会はこれに合意しました。「爆弾は可能な限り迅速に日本に対して使用されるべきであり、日本にいかなる警告も与えることができない。民間人の居住区を目標の中心にすることはできない。だが、できるだけ多くの住民に深い心理的印象を与えるようにしなければならない。最も望ましい目標は多くの労働者が働いていて労働者の住宅が近くにある重要軍需工場である」つまり、無警告で工業都市に投下するという結論になってしまいました(トルーマンがバーンズを通じてこの結論に主導したと考えられています)。

バーンズは会議が終了すると、その足でトルーマン大統領に委員会の結論を伝えました。バーンズは「委員会調査や代替案の検討について知らされ、何日もの間、この問題を真剣に検討し続けてきた」とし、大統領は「代替案が考えられず、委員会が勧告してきたことと自分が同じ考えであると分かったことに不本意ながらも同意せねばならない」と応じたと記していました。

一方、五日後に正式に報告に赴いたスティムソン(スティムソンが委員長でした)は、大統領が「バーンズは成し遂げられたことに大いに満足しているように見えた」と述べたと記録していました。

そして暫定委員会の議事録が、スティムソンが委員会の意見としてこの結論を得たかのように記述されていましたが、スティムソンは(当日の日記によれば)、海軍次官のバードとともに大統領に呼ばれ委員会を途中退席してホワイトハウスに行っていて、肝心の暫定委員会の結論を出すときにいなかったので、彼はこの結論に不満を持ったようでした。