壱之夢 ユニークな生い立ち

第1話 南の島の燃える恋

この酔狂な男、有馬文左衛門とは、そも、何者か。有馬一族は、かつて九州の一豪族に過ぎなかった。江戸時代の末期から明治にかけては、島津の殿様につかえるかたわら、焼酎や黒酢など醸造業を手広く営んでいた。

幼少の頃より賢く、気が利く文左衛門。殿様に気に入られ御庭番を務めるかたわら、お側小姓として取り立てられていた。弱冠十二歳で沖永良部島の勘定奉行の下役を命じられる。島民をこよなく愛し、いつくしんだ文左衛門。率先して道普請みちぶしんや農作業に汗を流す。やまとんちゅ〈薩摩の人〉でありながら、うみなんちゅ〈沖永良部島の人〉として島人から敬愛される。

〈文左衛門が沖永良部島に赴任して五年後〉

村長むらおさ、大城源之丞の娘、加奈は、文左衛門の身の回りの世話をしながら文左衛門と共に肩を並べて農作業に励む。そしてまた、読書を好む文左衛門から論語を習うなど、知識欲旺盛な乙女でもあった。加奈は文左衛門のたくましい体と優しい心に、次第に惹かれていく。

一方、文左衛門は島の娘、加奈の底抜けに明るい性格、若さではち切れんばかりの肉体、優しい心にぞっこん参ってしまう。こうして甘い中にも充実した日々が流れ、文左衛門十七歳、加奈十四歳の夏を迎える。

今宵は夏祭り。文左衛門と加奈は盆踊りの輪を抜け出し、人影のない浜辺へと向かう。二人は砂浜に横たわり手をつなぎ合う。頭上には満天の星がきらめき、足下では潮騒しおざいが二人をロマンチックなムードで包む。

加奈は、はやる気持ちを抑えきれず「文左衛門さまー」と甘え、文左衛門に寄り添っていく。それに応えて文左衛門も、がっしりとした胸に加奈を抱きしめ「この世に女子おなごは、あの星の数ほどおる。じゃが、わしの好きな女子は、加奈、そなた一人じゃ。お前が好きでたまらん。儂の子を産んでくれ」と、愛を告白する。

「嬉しゅうございます」と、応えると、文左衛門の唇が加奈の唇をふさぐ。しばし、優しい愛撫が続き、微かな痛みを感じると、加奈は深い陶酔の淵へと沈んでいく。かくして、二人は結ばれ、それは自然の成り行きとして家族はもとより島の人々からも祝福される。二人は加奈の家の離れ家を竜宮城として浦島太郎と乙姫さまのように甘い日々を過ごす。