そして、三年の月日が流れ、二人は運命の岐路に差しかかる。代々続いてきた家業を継ぐため、生まれ故郷の鹿児島へ帰らなければならなくなった文左衛門。生まれてくる子供と共に豊かな自然、人情細やかな沖永良部島に留まるか、はたまた文左衛門に従って薩摩に渡るか、千々に乱れる加奈の心。

加奈とその母、葉奈は、文左衛門が島で暮らし続けることを望んだが「大志を抱く文左衛門に、この島は狭すぎる。加奈、お前もあの男についてゆくがよい」と、父、源之丞にさとされる。

「そなたは何も心配することはない。鹿児島で結婚式を挙げれば、やまとんちゅも、うみなんちゅもない。そなたには、いつも儂がついておる」という文左衛門の力強い言葉に意を強くし「加奈はいつも文左衛門様を信じております」と、決心する。

〈ナレーション〉

明治五年、横浜-新橋間に我が国、初の鉄道が開通する。それから三十七年後の明治四十二年、ついに東京から鹿児島まで鉄道がつながる。それは、文左衛門が加奈を連れて鹿児島に帰って来てから二年後のことである。

そして、その三年後、元号が明治四十五年から大正元年へと変わる。文左衛門は焼酎や黒酢のほかに海産物まで手を広げ、身を粉にして働く。それでも飽き足らず、大志を抱く文左衛門。目まぐるしく変わる世の中を目の当たりにして、もう我慢できない。夢に向かって一歩を踏み出す。

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※本記事は、2022年4月刊行の書籍『生者必滅、会者定離』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。