2

息子のジョンスの声が聞こえた。

「父さん、行ってきます」

ヒョンソクは慌てて手紙を胸ポケットに入れ、二つの鞄をクローゼットに押し込んだ。

「気をつけてな」

ドアをあけ、彼は返答した。庭には、ジョンスと彼の妻、そして孫の姿があり、彼らは外出するところだった。

「あ、そうだ、今日から何日かチュンチョンへ行ってくるよ」

ヒョンソクは言った。ジョンスとその妻は足を止め、互いに顔を見合わせた。

「どうして突然チュンチョンに?」ジョンスが尋ねた。

「ああ、ちょっと片付けたいことがあってな」

3

韓国、チュンチョン

ヒョンソクはボーイに続いてホテルの客室へ入った。ボーイが鞄を置くと、ヒョンソクが言った。

「ちょっと頼まれてくれないか」

彼は財布から金をいくらか取り出し、ボーイに渡した。

「これはなんですか。なんのお金ですか」

「何日かソヤン湖へ行ってくるのだが、私の代わりにこの手紙をこの住所に送ってくれないだろうか」

ボーイは躊躇ったが、結局手紙と金を受け取り、礼を述べて部屋を出ていった。

ヒョンソクは部屋を見回した。部屋の窓からは湖と山が見えた。初秋の景色はとても美しかった。紅葉やイチョウの葉は徐々に色づき始めていた。

翌日、ヒョンソクは朝早くに目が覚め、部屋のカーテンをあけた。天気は昨日とは違って空は雲で覆われ、強い風が吹いていた。

彼は窓際に立ったまま、長いこと湖を眺めていた……。彼の部屋のテーブルには焼酎のミニボトルが三本載っていた。一本はすでに空っぽだ。ヒョンソクは二本目をグラスに注いで、ひと息に飲み干した。

鞄を二つとも肩に担ぎ、ヘグムを手に取ると、彼は部屋をあとにした。

ヒョンソクは山の中腹へ登った。崖からはそう遠くなかった。彼は大きな岩の上に立ち、下方を見下ろした。風に吹かれて波立つ湖が見えた。大きな木が、少し先の坂の途中に生えているのが見えた。彼はその木を目指した。その木の前に到着すると、鞄を木の根元に置いた。

彼は崖へ向かって歩いていき、腰を下ろした。激しい風が彼の周りで吹き荒れていた。彼はその風をほとんど気に留めていなかった。木のところへ戻ってきて、鞄から焼酎の瓶を取り出した。瓶の蓋を外すとそのまま勢いよく喉に流し込み、それからヘグムと弓を鞄から出して地面に置いた。

鞄から弦が巻きつけてある糸巻も二つ取り出した。そして彼は、ヘグムと弓にそれぞれ括りつけるために弦を解き、それをハサミで切り始めた。弦をヘグムと弓に括りつけるのには時間がかかった。彼は残りの弦を糸巻に巻き戻したあとそれらの糸巻を鞄にしまおうとしたが、うまくおさまらなかった。二つの糸巻が鞄からこぼれ落ち、斜面を転がった。

彼は慌ててそのあとを追いかけた。丸い糸巻が風に吹かれてあっちへ行ったりこっちへ来たりしたせいで、巻きつけてあった弦が解けてしまった。彼はなかなかその糸巻に追いつけなかった。

その時、糸巻から伸びている弦が片脚に絡まってきていることに、彼は気づいていなかった。彼はどうにか両方の糸巻に追いついた。木のところへ引き返し、それらを鞄の中にしまった。ヒョンソクは再び焼酎を手に取って一口飲むと、袖で口元をぬぐった。それからヘグムと弓を拾い上げて、演奏の準備をした。彼の手は震えていた。それでもこの楽器の調律は容易にこなせた。彼はヘグムを弾き始めた。

ヘグムは韓国の伝統的な楽器だが、彼が奏でる曲は、完全に西洋の精神を受け継ぐものだった。彼が出す音は、はじめのうちは少し乱れていたが、やがて絶妙な、心を動かす旋律へ整っていった……。