10

翌日

ヨンミの主旋律がピアノで始まり、ヒョンソクが彼女の音に添ってヘグムを弾き始めた。彼らはアントニオ・カルロス・ジョビンの〈ハウ・インセンシティヴ(How Insensitive)〉という曲を演奏していた。

ヨンジュは市長を横目で見やり、ヘグムで弾かれる西洋音楽をどう思っているのか確かめようとした。観客の中に驚愕している者がもう一人いた。ヒョンソクのヘグム教師だった。彼とヨンジュはお互いに見つめ合った。

ヒョンソクの演奏は中盤に差しかかった。ほとんどの観客は、それまでヘグムで弾かれる西洋音楽を聴いたことがなかった。彼らは今耳にしている音になじみがなく、ぎこちない表情を浮かべていた。ところが、中には感情を込めて“ブラボー!”と反応を返す者もいて、彼らは、驚きと喜びで目を輝かせていた。

観客の一人が、一心にヒョンソクの演奏に聴き入っていた。彼の顔には、まるで天地創造そのものを目撃しているかのような表情が浮かんでいた。その人物は、ピアノ塾の教師であり、ヨンミの父親であるチュ氏だった。ヒョンソクがチュ先生のオフィスを訪ねたのは、わずか一週間前のことだった。彼は、来たるフェスティバルで、ヘグムでジャズを演奏してもいいか頼んだのだった。

最初、チュ先生はボサノヴァ・ジャズがヘグムで弾けるのか、皆目見当もつかなかったのだが、ヒョンソクが実演してみせ、可能だと示した。チュ先生は、ヒョンソクに、伴奏として主旋律とリズムを与える楽器がほかにも必要であるとアドバイスした。だが、ヒョンソクは、一緒に演奏するのはヨンミだけでいいと主張し、最終的にチュ先生が折れた。

それがこの若者にとって、どれほど意味があることなのかを理解して。彼は、ヒョンソクの演奏がとても魅力的で、個性があるということも理解していた。チュ先生はヒョンソクにフェスティバルまでに一緒にリハーサルできるのは二回だけだと強調した。

そのような過程を通して、彼らは今日、この場で演奏することになったのだが、彼らの演奏は信じがたいほど見事で、お互いに完璧に調和した演奏だった。ヒョンソクの演奏は人々を魅了し、観客の中には興奮して叫びだす者もいた。だが、彼らが最後の繰り返し部分に入ろうとした時、観客の中から大声が響いた。

「その曲をやめろ!」