第一章 夏の夜の出来事

二人は窓の外に目をやったまま、これまでの人生の足跡をそれぞれに思い起こしていた。やがて、二人はいつのまにか光が消えていることに気が付く。

「おい、光が見えないじゃないか」

「あら、いつのまに消えたのかしら? 気が付かなかったわね。わたしたち外を見ていたはずなのに」

時計を見ると午後一一時を回っている。光が再び見え始めてからかなりの時間が経過していた。山はいつもの夜に戻っている。啓一も節子も、狐につままれたような気分である。二人ともさっきまでの不安は消えていた。外は、闇と静寂がいつになく際立っているのが気になったが、とりあえず、隕石による危険はなさそうだ。

二人は前後して寝室へ入った。啓一も節子も、完全な静寂と夜の帳に抱かれると、隕石が落ちたことを遠い記憶のように感じた。いつかそんなことがあったな。巨大な隕石に驚いて右往左往したっけ。二人は同じ思いで眠りについた。

ほどなくして二人は夢を見る。二人とも子どもが授かる夢だ。啓一は男の子が生まれて大はしゃぎである。節子は女の子が生まれて涙を流して喜んでいる。啓一は夢の中で男の子とキャッチボールを始める。節子は女の子の髪を編んであげる。二人には、それぞれに欲しい子どものイメージがあった。啓一は男の子、節子はまずは女の子。その後の性別は問わないが、多ければ多いほどよい。にぎやかな家庭に憧れた。

四 隕石の正体

翌朝、二人はいつもの時間に目を覚ました。前夜は隕石騒動のために、就寝するのがだいぶ遅かったにもかかわらず、普段と変わらない時刻に起きてくる。多少の寝不足は感じるが、二人とも気分は悪くない。午前六時半に、二人でいつものように朝食をとる。夕べの事件は二人にとって遠い記憶となっていた。啓一は思い出したように夢の話をする。

「夕べ、おかしな夢を見たよ」

「おかしな夢ってどんな夢?」

「俺たちに子どもができた夢なんだ」

「あらっ、わたしもよ。わたしも女の子ができた夢を見たの。髪を編んであげていたわ」

「二人で同じ夢を見るなんて、奇遇だな。俺は男の子の夢だったよ。庭でキャッチボールをして遊んであげていたな」

「なーんだ。お互いに子どもができなかったときに、どんな子どもが欲しいかって、話し合っていたときと同じ夢を見たんじゃない」

「そう言えば、そんなこともあったな。子どもはやっぱり欲しかったよな」