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店舗購入

翌日、末吉は紘一を近所の「パピオン」という、いつもあまり客のいない薄暗い喫茶店に呼んで、昨夜の峰子との話をして、安田の店を買うことと、自分が会社の経営から退くことを伝えた。

紘一は、これからの藤倉産業の事業を西方市の委託業務だけに頼らず、産業廃棄物の収集運搬処理業の分野にも拡大することを考えていた。

そのために会社の余剰金を使って中間処理施設を建設し、これまでは処理施設を持った会社に受け入れを依頼して、その処理費用を支払っていたものを、自社で回収してきた廃棄物を自社で中間処理できるようにする。

そしてなおかつ、他社が回収した廃棄物を中間処理会社として受け入れ、逆に他社から処理費を受領することによって、収益を倍増させ、他社との競争力と西方市への信頼度を高めようと計画していた。

紘一にとって、四千万円はかかるだろうと試算して用意してきた設備投資費用のための余剰金から一千万円を持っていかれるのは、かなりな痛手だった。しかし、末吉が会社経営から退けば、かなり保守的な経営方針を持つ父との間で頻繁に起こる、意見の衝突がなくなることになる。

自由に事業方針を決定し、計画の実行が可能になることは、会社にとってこのうえないメリットだと思えた。そして、紘一自身にとっても、自分が経営の実権を握りたいという欲求が、ようやく満たされることになる。