第Ⅱ部 人間と社会における技術の役割

Ⅱ-3 技術と経済

6.技術の社会的費用

技術が社会のなかで使用されるためには、それを支える費用がいろいろとかかります。その技術が社会のなかで使われる場合、その技術の使用によって発生するいろいろな負担の処理を、その技術の販売者と消費者だけで賄いきれるとは限りません。

その技術が社会のなかで使われるために、社会が負担する費用を「社会的費用」と呼びます。自動車の生産から消費、廃棄までにかかる費用を示したのが図表1です。

写真を拡大 [図表1]自動車の社会的費用

自動車を生産するためには、材料や部品の調達・生産費用、設備費用、労働賃金費用がかかります。自動車を使用するときには、石油や電力などのエネルギー、自動車が走るための道路建設・運用費用、信号建設・運用費用がかかるほか、警察が行う交通事故対策、取り締まり費用、免許取得・講習費用、自動車に関わる法律を整備するまでの費用もかかります。これらは自動車所有者自身からの負担もあれば、国民の税金からの負担もあります。

一方で、交通事故が起きると、賠償金が支払われたとしても死亡や障害がなくなるわけではなく、お金では直接の解決はできません。また、自動車が出す二酸化炭素などによる地球温暖化の問題は、その対策が社会および次世代の人々の対策に任されており、現在の自動車の製造者や使用者が負担しきれていません。

このように自動車の製造者や使用者が賄いきれず、現在および将来の社会が負担する費用が「社会的費用」です。そして、この社会的費用のなかで人命に関わる問題や環境に関わる問題は、現時点の社会的コストでは解決することができず、将来世代が負担することになります。将来へ“ツケ”を残しているのです。このような、技術やお金では解決できない問題をできるだけ生じさせないよう、また、環境問題のように将来世代に負担をかけないように社会での技術を開発し、維持していくことが大事な課題です。

原子力発電の社会的費用についても考えてみましょう。原子力発電に関わる費用を挙げてみたのが図表2です。

写真を拡大 [図表2]原子力発電の社会的費用

まず、原子力発電技術を開発するまでの研究開発費用、試験炉の費用、ウラン濃縮などの材料技術開発費用、高速増殖炉など関連する技術の莫大な開発費用がかかっています。次に、原子力発電所を建設して動かすためには発電所の建設費用、運転メンテナンス費用、ウラン資源取得費用、原子炉立地対策費用や地元援助費用、事故や災害が起こった場合の汚染対策や避難費用などがかかります。

また、事故が発生した際の風評被害は、その地域のほかの産業や生活に大きな影響を与えます。さらに、発電後のウラン燃料の再処理、中間貯蔵設備・維持費用、最終処分費用、そして原子炉の廃炉費用などがかかります。これらのうち事故の際の避難は、その家族にお金では解決できない多大な負担をかけることになります。

また、再処理や最終処分、廃炉(特に事故を起こした後の廃炉)などの費用はまだ見通しが立っておらず、将来の世代の負担として“ツケ”を残しています。このように、原子炉の電力会社や電力消費者だけの負担では賄いきれない負担(見積もりできない負担)が残っていることを、よく認識する必要があると思います。

※本記事は、2019年4月刊行の書籍『人と技術の社会責任』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。