第Ⅱ部 人間と社会における技術の役割

Ⅱ-3 技術と経済

4.景気対策と技術

一企業単位で見ると、倒産を起こす要因はさまざまありますが、最も大きいのが図表1に示すような「売れなくなったものを大量に作る」ということでしょう。新しい商品に対する需要は当初こそ飛躍的に伸びますが、いつかは飽和して一定の状態になります。

写真を拡大 [図表1]企業の過剰設備・生産による倒産

また、他社からの新製品が出てきたり、ユーザーの志向が変わってきたりすると、その商品需要は下がってきます。それにもかかわらず、需要が伸びているときにその増加が今後も続くと考えて、生産を伸ばすために工場を立ち上げたり、新しい設備を導入したりして生産能力を拡大しても、実際の需要に対して過剰になり、設備投資のために借り入れた資金の返済ができなくなり、倒産に至ります。

このように、生産しているものや新しく開発したものに対するものが需要に見合っているかどうか、消費者にとって価値のあるものかどうかを見極めて、開発投資や設備投資を行うことが必要です。企業は常に他社との競争を行いながら、技術革新に努めています。この活動が社会全体における経済活動、生活の発展につながっています。

社会は図表2のように、すでに成長して均衡状態になった技術の産業規模や縮小しつつある技術、今成長しつつある技術などのさまざまな技術の産業規模の総和がそのときの経済規模になり、経済成長しているのです。

写真を拡大 [図表2]技術開発と経済成長

5.グローバル経済と技術

1990年代からアメリカでは金融の自由化(銀行が証券や保険も扱うなど)が進み、インターネットを活用して海外からの資金を集めるようになりました。金融商品の売買がビジネスになり、アメリカにおける金融取引の比重が高くなりました。たくさんの投資家がベンチャー企業に投資するようになりました。

一方、国内での生産は海外にシフトし、例えばiPhoneの生産では、アメリカで設計・開発、販売、サービスを行う一方で、部品の生産は日本や韓国などで行い、組み立ては中国で行うといった国際分業ができました。

また、IT技術を活用してソフトウェア作成をインドに発注するなど、「サービス貿易」も拡大しています。アメリカ国民の多くが株や債券に投資し、旺盛な消費力によって海外で生産された商品を購入しています。その概要を図表3に示します。

写真を拡大 [図表3]アメリカを中心としたグローバル経済

このように世界中から資金を集め、世界各国で部品やサービスを生産するといったグローバル経済が発展しています。世界がますます一体化して、情報の交換、お金の調達、生産の国際的な分業、ものだけでなくインターネットの仮想空間上でのサービスの売買、商品の世界的な流通といったグローバル化がますます進むものと考えられます。このような世界的な経済システムのなかで、技術の役割や責任を考えていく必要があると思います。

※本記事は、2019年4月刊行の書籍『人と技術の社会責任』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。