そのうち十七歳くらいの二人の青年が英語で話しかけてくる。一人は片言の日本語も話す。これからカサブランカに行くのだというと、カサブランカはつまらない所だからやめて、フェズに行ったほうがよいと勧める。カサブランカ行きのバスはキャンセルできるので、今日はこのテトアンに泊まり、明日の早朝フェズに行け、と勧められる。

たしかにこのままカサブランカに行くと深夜の二時着だし、あまりにも熱心に勧めるので彼らの勧めに従う。安いホテルを紹介するというのでついていくと五人部屋で、そのうちの一つのベッドに昼間なのに裸の男女が入っているのには驚いた。米国人だ。

そのホテルにチェックインした後、彼らの案内でバザールを改めて歩く。狭い露地の両側には小さい店が並び、薄暗い中に裸電球がぶら下がっている。通りは多くの人で混み合っている。

一軒の店でモロッコマントを買う。するとモロッコワインを勧められる。店の奥に座ってその店主としばらく話す。彼は自称学生で、アラビア語のほかに英語、スペイン語、フランス語を話す。中学から大学まで十年間も英語を習ってもまともに英語を話せない日本人にとっては驚異的な語学力である。

アラブ諸国ではイスラエルに肩入れし、世界の警察として一方的に米国の正義を押し付けてくる米国に対して、反米・嫌米感情が強いが、彼も同様である。それも半端ではなく、その反米・嫌米感情はとどまるところを知らず、いかに米国が理不尽でアラブ諸国にとって悪いかをまくし立てる。

そしてモロッコの人たちの貧しさ、土壁の汚いみやげ物屋の前を通る、汚れた着物に裸足のモロッコ人を指差して、「彼らは一日に五~七ドラハムしか稼げないのだ」と嘆く。一日の賃金が一・五米ドル(三百七十円)くらいだ。なるほど貧しい。私をバザールに案内してくれた二人も学費を稼ぐために今は大学を休学しているとのこと。