【前回の記事を読む】長かった子育てが報われた日。紆余曲折経た長女の就職に感慨

ろう学校の体育祭の風景から

東京近郊の地方都市の中心部に、「Aろう学校」という聴覚器官に障がいのある児童・生徒を対象にした学校がある。私の次女は、高校生の時期までその学校の生徒だった。娘の在学中はほとんど毎年、五月の下旬から六月の下旬にかけて行われる、その学校の体育祭に参加していたのだが、以前、体験したその一場面について紹介したいと思う。

Aろう学校は、三歳児から始まる幼稚部から、通常の高等学校にあたる年齢の高等部まで、幅広い年齢の児童・生徒が、同じ敷地内で学んでいる学校である。したがって、その体育祭も、まっすぐに走ることがおぼつかない幼児から、大地を蹴るような力強い迫力のあるダッシュを見せる少年たちまで、非常に多種多様な競技や演技を見せてくれる。

その中で圧巻と言えるのが、終盤近くなって行われるリレー競技だ。全員が参加して行う点は、私の勤務する中学校の「全員リレー」と同様なのだが、Aろう学校では、幼稚部から高等部までの全校生徒が、紅白の二組に分かれて競い合う。決してレクリエーション的な種目ではなく、一人一人の勝敗に関する意識は、かなり高いように思われた。

したがって応援も非常に積極的に行われ、幼稚部の子どもたちが走る際には、中学部、高等部の生徒までも一生懸命応援する。もちろん、「声」ではない。手話を中心としたボディーランゲージである。

もっとも年齢の低い六歳児は、三十メートルを走る。しかし、その距離さえも子どもたちにとっては長く感じられるらしく、途中で転んで差がついてしまった児童が、大声で泣き出してしまうことが多々ある。周囲から走り出て慌てて抱き起そうとする中学部の生徒を、高等部の生徒が、身体全体で「とおせんぼう」をして制する。事情が判らないと、まるで取っ組み合いのけんかでも始まるのではないかとも思えるような勢いだ。