城下の守谷口から二河平野を斜めに横切って金崎港まで流れる粗衣川には、北陸街道と交差するところに街道大橋が掛かっている。その先に二河平野に水を供給するための人工の水路である小粗衣川という支流がある。そこの分岐部に小粗衣という海防方の屯所があり、そこが海浜に六つある海防番所を仕切っていた。

小粗衣の屯所の長官、若宮伸吾は海防方のなかでも気鋭の人物で、萱野軍平と意見が良く合った。二人とも座礁した異国船が大砲を積んでいると知ると、藩の海防の不備を補うために、それを利用することを考えたりするほど、自由な発想をするところが似ていた。

萱野軍平はとにもかくにも実物を見ないことには始まらぬと、早速、緒方三郎を夜中にもかかわらず呼び出し、馬を駆って夜明け過ぎには小粗衣の屯所に連れて行った。

すでに知らせをもらっていた若宮伸吾は、疾の番所に人を走らせて、坊の入り江に向かう道の封鎖を命じていた。萱野軍平らが着いて事情を聞くと、さらに金崎港以南の番所の番士と舟を疾の番所にあつめさせ、海上も封鎖しろと指令を出した。