【前回の記事を読む】宝や大砲を積んだ異国船。積荷を巡りそれぞれの思惑が渦巻く…

異国船の調査

階太夫郎は、いまは自分の管轄下にある異国の難破船から無くなった物があることが藩に知れたら、自分の管理責任が疑われると、烈火のごとく怒って、友左衛門に船から持ち出したものを速やかに回収しろと命じた。

階は体に似合わず気が小さく、権力はかざすが保身には敏感だったのだ。友左衛門は代官が後で調べに来るから船から取った物を直ちに戻せと、村に触れを出したという。

「村人が船から盗った物は、お代官様のところにすべて持って行きました」と言いながら、友左衛門は吹村日常録と上書きした控え帳を持って来た。

「ここに持ち出したものすべてが控えてあります。わしらが見たこともない青色の玉や装身具、きれいに細工してある短筒や鉄砲なんかもありましたな」

回収した物は、すべてこれに書きつけてあるという。友左衛門は何か不都合なことが起きたときに、記憶違いを糺すのに非常に役立つと、毎日、村内で起こったことを記録する習慣があった。

吹村日常録との銘の如く、普段は日常の話の記録で、どこそこに子供が生まれたとか、死亡したとかが特撰記事だった。しかしながら、今回の坊の入り江に異国船が座礁した事件は、特撰中の特撰記事だったからその経緯が詳しく書かれ、村人が異国船から持ち出した物品や装飾品は、一つ一つ詳しく記録してあった。

この記録が証拠となって、階太夫郎が村人から回収した物をねこばばしたことがばれた。

村人は実にさまざまなものを異国船から持ち出していた。翡翠、サンゴ、エメラルド、ルビー、サファイヤ、メノウ、トルコ石などの宝石、真珠の首飾り、金製の鎖、胸飾り、腕輪などの装飾品、望遠鏡、ギヤマンの鏡、さらには袋に入った金貨、さまざまな壺や皿の類などである。