船は竜巻の力で持ち上がり、さらに回転しようとしたが、船体は着水していたために竜巻の風に帆だけがねじれ、メインマストが耐えきれず、ねじ折れた。メインマストに登っていた水夫たち全員が海に投げだされた。

「折れたマストを切り離さないと沈没する!」

と命令するが、命綱をつけた水夫たちが大波をかぶるたびにさらわれ、船は完全に制御不能になったのである。船室にいた戦闘員らも、大波で船が大きく揺さぶられるたびに壁に叩きつけられ、全身打撲あるいは首を骨折して死亡した。船長もいつの間にかいなくなった。

パレード号は逆巻く波のなかを、折れたマストを右舷に垂れ下げて傾いたまま、北風に煽られ、南東に流された。坊の岬に近づくと、風が岬に続く岸壁に誘導されて東向きになり、パレード号はその風に乗り、坊の入り江へと突っ込み、入り江の中央に連なる岩礁に座礁したのである。

そのときは、まだ船には生存者がいた。彼らは船が座礁して止まったのはわかったが、船の横を波が轟々と音をたて、白壁のように立って岸に打ち寄せていくのを見て、とても岸まで泳ごうなどの気は起こらなかった。

夕方、嵐のなかで海を見に外に出た村人の一人が、村長のところに駆け込んできた。見たこともない異国船が流されて入り江に入ってくると云う。村では半鐘を鳴らし、村人たちが浜辺に集まったが、どうすることもできなかった。

大きな船はやがて入り江の真んなかにある岩礁にぶつかり、そこに乗り上げ、その衝撃で乗組員の何人かが海に落ちるのが見えた。すぐに、辺りは暗くなる。村長の友左衛門は浜辺に火を焚かせた。風は少しも収まらず、火に映る大波は相変わらず壁のように立ち、次から次からと打ち砕かれている。その向こうに座礁している船がかろうじて見えた。

「もっと火を焚け」

友左衛門が怒鳴っている。火が大きくなった。誰かが叫んだ。

「船から海に飛び込んだ奴がいるぞ」

岸辺で焚かれている火の明かりに映る波がすこし収まったように見え、岸が近いと海に飛び込んだらしい。

濡れて冷えきった体で岸まで泳ごうとしたが、海の水はさらに冷たく、それが泳ぐ者の体力を奪った。波は弱まったわけではなく、宵闇がそう見せただけだったのだ。

岸近くになって、壁のように立ち上がる大波に叩き伏せられ、気を失い、引き波に引きずられて沖に流されてしまった者もいた。それでもなんとか岸にたどり着いた何人かに村人が手を貸したが、次々と死んでいった。疲労と寒さとで低体温症となり、痙攣(けいれん)を起こして心臓が止まったのだ。