〈苦労させたね、お母さんはおまえがいたおかげでやってこれたんだよ、離婚はおまえのせいじゃないよ、そう言って差し上げられませんか、本当のことですよね。そして……〉

「そんなこと言えるわけないじゃないですか!」

かまわず私は続けた。

〈いえ、多分言えると思います。そして、あの人たちはおまえのことを嫌いじゃないんだよ、と言って差し上げてください。これも本当のことですよね。そして、みんなはおまえのことを嫌っているわけじゃないんだ、ただ可愛がり方がわからない人たちだったんだよ、苦しみを植え付けたのはお母さん自身ですから。それを取り除くとしたら、それができるとしたら、それはお母さんだけじゃないでしょうか〉

〈あなたに忠実な娘に、どうぞ、そう言って差し上げてくださいませんか〉

母親は黙り込み、うなだれたままだった。

その後この毒親はカウンセリングに現れなかった。彼女が娘に何をどう伝えたかはわからない。だが、しばらくして娘がカウンセリングルームを訪れた。顔色は血色に満ちて、姿勢はすっかりのびのびとしたものになっていた。

「このところ母が変わって、わたしもだんだん元気になってきました」

「母は……、前より優しいっていうか? 前からも優しくはしてくれていたんですけど、どこか距離を感じていたのが、なくなってきたみたいな」

「親身になったみたいな? 変な言い方ですよね、母親に対して親身なんて。でも、前は何でも命令するようなところがありましたが、今はちゃんと頼んでくれるっていうのかな、こちらの気持ちを考えてくれるというんでしょうか……」

とりあえず高校を卒業したいなと思うので、アルバイトしながら定時制高校行きます。その先のことは考えていません、とのことであった。

母親は自分にされた仕打ちをこの子に向けていたのだろうか。恐ろしい仕打ちである。それをこの母親にさせたのは誰か。そのことも、考えれば恐ろしいことである。誰もそんな仕打ちをしていると思ってやっていた人はいないのだろうから。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『毒親の彼方に』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。