この手紙を受け取ってから間もなくだった。耳を疑いたくなる情報が飛び込んできた。婆須槃頭が日本映画に出演するというのだ。

もしかしてという期待は確かにあった。しかし、現実にそうなっても私の理性は素直だった。

「やはりそうきたか」

内心は婆須槃頭に会えるという期待で膨らんでいた。彼に無性に会いたいという気持ちは手紙を読んで募っていたところだった。映画の題名は「山名戦(やまなせん)国策(ごくさく)」。

監督と脚本はなんと女性だ。新藤由美子。その男勝りの雄大な映画製作能力は「女黒澤」と呼ばれて久しい。映画は今度で六作目となるが、初の時代劇だ。

私は伝手を頼って脚本を手に入れた。新藤由美子の快作だ。室町時代後期の十年に及んだ応仁の乱、その詳細。それを実に手際よくまとめている。日本映画がこれを題材にするのは初めてである。

婆須槃頭は主役の山名方の武将を演じる。新藤由美子に以前取材をしたことがある。そのたたずまいは一映画人として男女の境界を超えて見事なものだった。

「映画は結果としての記念物のような物でしかない」

その言葉は彼女の映画監督として発せられたものとしては、はなはだしく理知的なものだった。