今回の戦では、〈種子島〉と呼ばれる鉄砲を百挺ほど揃え、その威力を儂は試すつもりでいる。もちろん百人の鉄砲衆には充分な稽古をさせてある。

儂らが着陣してしばらくすると、筒井勢も城を出て、城から二十町ほど西に布陣した。超昇寺殿の物見によれば、筒井勢の先陣は島左近、二陣は松倉右近、と予想通り〈左近右近〉を前面に立ててきた。

両軍の睨み合いもそこそこに、富雄川の並松という所で双方の先陣が衝突した。

島左近の剛勇ぶりは噂に違わず、当方先陣の超昇寺勢と二陣の本庄孫三郎隊は押されている。敵はここを勝機とみたのか、二陣の松倉右近も突っ込んできた。

退()きの合図っ」

床几に座ったまま儂は大声で命じた。法螺貝が鳴り響き、当方の先陣と二陣が退いた。右近も左近は追撃を止めない。思い通りの展開に儂の口元は自然と緩んだ。

「射撃の合図っ」

再び儂が叫ぶと、今度は音色の違う法螺貝が響く。と同時に伏せておいた鉄砲百挺が一斉に火を噴いた。

これには()しもの右近も左近も堪らず、八十ほどの屍を残して退却していった。

時を移さず、奈良盆地のほぼ中央にある筒井城を儂らは囲んだ。

「撃てぇ!」

百挺の鉄砲が轟音とともに一斉に火を噴くのと同時に、物見(やぐら)の敵兵が視界から姿を消した。

「おーっ」

敵からも味方からも驚きと恐怖の入り混じった声があがった。

鉄砲の轟音と威力を目の当たりにしたからか、城方は戦意を喪失し、(わず)か一日で城は陥落。筒井勢は奈良盆地の東のはずれの山間にある椿尾上城へと逃れていった。

「噂に聞く筒井の右近左近も口ほどにもないようじゃ」

大和における初戦の呆気ない勝利に、儂らは鬨の声を上げた。