罪の咎のような重くるしい気持ち

「なんとなく感じ取れるものよ。理屈じゃないわ」

「そんな風に感じ取ってくれるものを本当に出しているのかなと、こちらの方は思ってしまうし、どうも二人の関係って何かこう浅すぎる、それとも淡泊すぎるっていうのかな、何か具体的に君に影響を与えることができるようなものが自分に本当に備わっているのかな、とか思ってしまって……」

「そんなこといちいちこだわって考えることないんじゃないの。ここで、今こうして私の方はのんびりした気分になれてるわけだし。あなたの方も今ここで私といるのが苦しくって、早くここから逃げ出したいなんて思ってる感じでもなさそうだし……」

そう言いながら恭子はソファに腰かけたまま、少し上体を前かがみにして、いたずらっぽく控えめな笑みを投げかけてくる。一度だけだったが、彼女は来栖と親密な関係を続けている理由をユーモアたっぷりに語ってくれた。

「強いて言うとね、部屋の片隅でもどこでもいいから子供が安心しきってすやすや眠ってくれてるのを見ていながら、安心してあなたとスキンシップをし合ったり、セックスをせかせかしないでゆっくりできるってところかな。でももう変な問いかけはこれでなしにしましょ。答えるほうもこれでおしまい」

この後彼女への問いかけを控えるようになった。完全に納得のいくような回答など彼女から得られることもないだろうという半ば悟りの境地だ。それが彼女の妊娠を契機に離別することになってしまった時まで続いた。中途半端に納得してしまったとの思いは彼女の死後になくなるどころか、かえってぶり返してきた。

来栖は再び彼女との関係を振り返るようになり、性格の違いに気づくところから始めて、男女の絆についても根本的に考え方が違っていたと理解するようになった。

もっとも理解の端緒につけたようだと思っても、客観的にみて正しい判断に基づいているのかどうかもわからないままだ。何かしっくりこないという思いは、そのまま違和感となって滓のように残り続けた。