置き去り

こんな状態で家はどうなっているのか?

強盗に襲われたりしていないか? 二十日以上留守にしていたのだったら、十分考えられる。そのあげく、私が山に捨てられたのかもしれない。

スカートのポケットに小銭と家の鍵だけはあった。

だが、鍵を開けると、何も変わっていない私の部屋が目に入ってきた。

警察官は、

「何か変わった様子はありますか?」

と、聞いてきた。

見回したが、見慣れた私の部屋だ。変わった様子は見当たらない。

そうだ! 通帳は? 通帳があるか確認しなければ!

ちゃんとあった。得体の知れない強盗などない様子だった。

「何もないなら、帰っていいですか?」

と、警察官はのんきに言った。女性警官は少し心配そうな顔で私を見ていたが、これ以上何かしてもらうわけにはいかない。私は、

「ありがとうございました。何か、思い出したら報告します」

と言うしかなかった。

警察官が帰ったあと、一人でまた記憶を巡らした。

夏は終わりかけ、窓を開けると涼しい風が入ってきた。大きなトラックが窓の外から見えた。

私は着替えることにした。着ていた洋服はあまり汚れていない。汗臭さもそれほどない。

確かにおかしい。まるで、二十日間タイムスリップした感じだ。

さらに、今脱いだこの服に見覚えがないことに気がついた。スカートなんて、スーツ以外身に着けないことが多いのだ。

大人になってからというより、子どもの頃からスカートなんて穿かない私だった。

制服以外では、大人になって初めてスカートを穿いた。そのときは何だか違和感があった。私は性格的に女性らしさがなかったのだ。だからといって男性的というわけでもないが、女性らしさはなかったと言っていい。

常に自分で自分を他人から守るために、スカートでは守りきれないと本能的に思ったからだろう。別に誰かから攻撃をされたわけではないが、攻撃をされたのと同じ気持ちでいたのかもしれない。つまり、無視されるという、攻撃だ。

今から思うと、友達からのそんな『攻撃』に対して、防衛したのかもしれない。お互い本気になって楽しく遊ぶ親友は、今も昔も一人もいなかった。

だから、やはりこのスカートは明らかに変だ。いわゆる誰か他人のものに違いない。

変だ!!

やっぱり、これは事件だ!

交通事故で、記憶をなくした可能性も否定できないが、記憶がないのはこの三週間くらいだし、このスカートを買った記憶もない。頭も痛くはなかった。

そうだ! 会社に連絡しなければ! 三週間も無断欠勤なら、会社を解雇されるかもしれない。会社の同僚だって、家に電話したはずだ。

慌てて会社に電話をしようとした矢先、夏期休暇を取っていたことを思い出した。勤続十年の特別休暇も加わって、長い休みを取っていたのだった。そのために、休暇に入る前までは、連日忙しかったことを少しずつ思い出してきた。

カレンダーを見ると、9月22日まで休みと書いてあったから、私が出勤しなくても、誰も確かめるはずがなかった。

思い出してきたことは、まだそれだけだが、徐々に思い出すだろうか?