いたずらな運命~信頼とエゴの狭間で~

疑いなく舞い上がっていた。

話が何回か、らしからぬ方向に行った。だから、映画化されるなんて思ってもいなかった。自分が書いたくだらない脚本が、おもしろがられるなんて。拙いと思われる、おこがましいと思われる、と思っていたのに。映画監督の目に留まるとは、さすがに考えも及ばなかった。何か、大きな間違いじゃないか? と思って、何度も確認した。だが、確かなようだ。

疑いの余地がないとわかると、嬉しさが込み上げてきた。せっかくのチャンスだ。自分の名を日本中に知らしめることができるかもしれない。多くは知らないが、かなり有名な監督であることは間違いない。映画館だけじゃなく、テレビとかで放映されたら、大出世だ。

俺の話を始めようか。今まで何をやってもうまくいかなかった。思い起こすと、正社員としての就職先はなく、常にアルバイトで生活してきた。頭から面接を拒否されたり、社会人として通用しない、とまで言われたりしたこともあった。自分自身がよくわからなくなっていた。疑いが強くなって、他人が信じられなくなっていた。日常がつまらなくて、自暴自棄になったこともあった。

映画館に通いだしたのは、そんな時期だった。良い映画もくだらない映画もあった。古い映画も新しい映画もあった。おもしろい映画もつまらない映画もあった。SF、恋愛もの、アクション、ノンフィクション、ホラー、歴史もの……映画のジャンルは問わず、いろいろと観て回った。少しだけ、生活の大変さを忘れられた。

映画は、一週間に一度は観ていた。生き方を考えさせられる映画に出会ったこともあった。恐ろしい、ひどい人生から立ち直った主人公に共感した。自分もそんな人生を送りたい、と漠然と考えていた。うまくいくことなんかないかもしれないのに。自分もいつか成功したい。描きたい人生が心に浮かびかけていた。

今までと同じ生き方はしたくない。アルバイトでは、なかなか自立なんかできない。何か金になる仕事を探さなくては。大きな車にも乗りたい。大きな家にも住みたい。美味い食事を笑いながら食べたい。

だが、それは今のままでは実現できない大きな夢だった。確かなことが何もない自分を愚かだと思いながら生きていたが、ここから生き方を変えなくては。あまりに、嫌な仕事を避けてきた自分を変えなくては。

これからは金になる仕事なら、多少危険でも引き受けよう。同じ道を行かないようにするには、多くは望まない。金になればいいのだ。ハイリスク・ハイリターンという言葉があるが、その道で成功したい。何でもいいから、インターネットで探そう。顔がばれなければ、多少犯罪めいたことでもいい。必ず、成功させる。