視線が自分に向けられているとは気づいたが、彼のほうは外見上あくまで落ち着いた佇まいで、来栖をいぶかしく思うとか、ましてや責めたてたり恨みがましいといったそぶりなど全く見せることはない。来栖の僻目からの見立てということになってしまうだろうが、案外心中少しは動揺しており、外見上のみ何とか平静を装っているのかもしれない。来栖は自身の心中と外見を高梨の身に置き換えて想像していることに全く気づいていなかった。

恭子について話し合ったのは八人ほど残った参会者が故人の思い出を語った後、それぞれに立ち去ってからだった。来栖自身もどことなく気詰まりな雰囲気にけおされて、出席者が腰を上げて暇を告げる段になると、それに合わせて立ち去ろうとした。

だが恭子の夫に呼び止められ、残ってくれないかと頼まれてしまった。今日やってくるに際しては少し気持ちに余裕がなく、恭子の息子と顔を合わせるかもしれないとは想定していた。幼いながらも、知り合いの叔父さんといった風に寄って来られたりした場合は、悪びれず親しみのある言葉をかけてやり過ごそうと思っていた。しかし法事に際し、どこか親戚筋にでも預けられているのか、恭子の息子と出会うことはなかった。それで気持ちに余裕ができたこともあって、当主の高梨とゆっくり話を交えても構わないだろうと、居残りを受け入れることにした。

高梨との話し合いで判ったのだが、意外にも恭子は夫に対し時々は来栖のことを語っていた。ややこしい話はわざと隠しているのか、あるいは故人の夫の立場からいって、そこまで立ち入らずともとの判断で高梨自身が込み入った話になるのを避けているのか、故人のことでは最初のうちは無難な話題に終始した。