視覚野と視覚意識

次に視覚についてですが、視覚はまず光がものにあたって反射して、目の網膜の視細胞に到達することからはじまります。

網膜に到達した光刺激の情報は、外側膝状体を通って(ここを通らないルートもありますが、意識との関係がはっきりしませんのでふれていません)、脳の後頭葉の一次視覚野V1(初期視覚皮質)に送られ、さらに高次の視覚野に行くわけですが、その際、形、色などの情報はV1→V2→(V3)→V4から側頭葉(下側頭連合野)へ送られる経路(腹側視覚路)、動き、位置などの情報はV1→V2→(V3)→V5/MT野(middletemporal)から頭頂葉(頭頂連合野)へ送られる経路(背側視覚路)が構成され(その間に情報の統合が行われ)、最終的にはこれらの情報が前頭葉の前頭前野へ送られて、記憶情報との照合が行われ、視覚情報として知覚される(意識化される、意識にのぼる)、つまり見える、と考えられています(V3は接続の様式が難しいので括弧としています)。

私達は何かを見たとき、見た瞬間に見えたと感じるわけですが、このように視覚意識の成立には(対象についての視知覚体験が生じるまでには)、網膜に光刺激が到達してから視覚皮質までの情報伝達や、その後の処理に一定の時間を要しているわけですので、対象に目を向けた時点とそれが見えた時点とが全く同時ということではなく、理論的には、見えるまでには時間的な遅れが生じていると考えられるのです。

ただ私達は、見えるまでにある程度の時間がかかっているということを、ふつうは認識していない、視線を向けたと同時に見えた、つまりリアルタイムに見えていると感じているのですが、これはなぜなのかということについて私の考えをのちほどお話ししたいと思います。

ここで、視覚野の機能についてごく簡単にお話しいたします。まず一次視覚野V1ですが、ここにはさまざまな傾きをもった線分に対応する細胞が並んでいて、視覚対象の輪郭や表面構造などを、おそらくは平面的にと思いますが、いかにも線で忠実に表現するようなイメージとしてとらえていると考えていただければと思います。

その後、高次の視覚野に行くにしたがって、色や表面性状(きめ)、奥行きや立体構造などの形態、位置や動きなどの要素が認識され、それらが統合されていって、視覚映像として完成していくと考えられます。

ちなみにこの場合、視覚情報が統合されて完成された映像が、脳内のどこかに局在化していくような領域があるのか、または局在化ではなくそれぞれ分散された状態で認識されるのかに関しては、まだよくわかっていません。