視覚誘発電位の測定

それではどのくらいの時間でものが見えるようになるのか、ものが見えるまでにはどのくらいの時間がかかっているのか、ということですが、これに関しては一般に、100~400ミリ秒くらいではないかといわれています。

ちなみに、何らかの視覚刺激が提示されてからすばやくボタンを押すという、「反応時間」の測定では、反応時間は180~200ミリ秒、または200ミリ秒±50ミリ秒などといわれています。

この場合、理論的には、この反応時間から刺激に反応してボタンを押すまでの時間を差し引けば、純粋に視覚刺激が提示されてからそれが見える(視覚意識としてはっきりとしていない場合もある)までにかかる時間というのが計算できるはずです。

視覚誘発電位の測定(網膜に光刺激を与えて、脳に生じる電位を頭皮上の電極で記録するもの、視覚系の機能の異常などを検出するのに役立ちます。私はこの電位は、視覚情報が脳皮質で処理され、伝達されていく過程での刺激情報の局在を反映していると考えています)には、フラッュ(閃光)刺激によるものと、パターン反転刺激(白黒の格子縞模様を1Hz程度で反転させる)(図表1)、によるものとがあります。

[図表1]

フラッシュ刺激の場合、網膜に光刺激(閃光)を与えてから、最初に記録される脳の視覚皮質での電位は、約30~40ミリ秒後とのことです。

ただこのフラッシュ刺激による方法は、同一個人差や個体差が大きく、解析が難しいとのことで、一般的にはパターン反転刺激のほうがよく使われているとのことです(ちなみにパターン反転刺激の白黒の格子縞模様のような図柄は、人目を引きやすいといいますか、パッと目に入ってくるといった感じで、私達の視覚は反応しやすい、無意識的に注意が向きやすい図柄といえるのではないかと思います)。

このパターン反転刺激を網膜に与えると、脳の後頭葉に、約75ミリ秒後、約100ミリ秒後、約145ミリ秒後に電位が生じます。実際には頭皮上の電極で、陽性に検出される電位をP(Positive)で、陰性に検出される電位をN(Negative)で表し、これらの電位はN75、P100、N145などと表記されますが、陽性、陰性の機能的な解釈は難しいということもあり、ここではP、Nの表記は省略いたします。

サルの研究から、約75ミリ秒後と約100ミリ秒後の電位は、一次視覚野V1に関連する反応(一般的には、V1では100ミリ秒後がはっきりした電位とのことです)、約145ミリ秒後の電位は、V1からV3にかけての視覚野の広い領域に関与する反応とされています。

つまり、網膜に刺激が与えられてから約145ミリ秒後くらいですと、視覚情報はまだ後頭葉の視覚野内にあるということになりますので、この時点では、まだ前頭前野に情報が送られる前の段階と考えられます。

この節の最初に申しましたが、視覚の感覚意識が生じるために、前頭前野に情報が送られ記憶情報との照合が行われることによって、視覚感覚として完成し、それが認知、知覚されるというのが一般的な考え方と思われますので、このことから考えますと、145ミリ秒後くらいの時点においては、視覚感覚としてまだ意識にはのぼっていない段階と考えられるのです。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『「意識」と「認識」の過程』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。