「私ここに来る前まで車の運転していたのよ」

峰子さんが小さな声で告白したのを、「車が動かせるなら、買い物に行けるじゃないの」お米さんは聞き逃さなかった。

峰子さんはおっかなびっくり『なでしこの里』とボディに書かれた車を運転していた。車が急発進して助手席にいたお米さんが叫ぶ。

「ブレーキ、ブレーキ、ブレーキ踏んで!」

大きな悲鳴を上げ、なんとか車はまた動き出し、今度は立木に衝突してしまった。山道をあっちにぶつかり、こっちにぶつかり、中に乗っているお米さんたちもよれよれ、これではいつスーパーに着けるやら。

買い物も命がけだわ、ボロボロになった車からお米さんたちが出てきて、スーパーによたよたしながら入っていった。やっと買い物ができたぞ。

スーパーの前に小さな質屋があり、お米さんは、預かった高額品を質草に現金を得た。それから自分のバッグから大事そうに宝石箱の指輪を出した。

「これ、本物のダイヤって、人からいただいたのです。本物って!」

真剣な顔で質屋に見せた。

「ガラス玉じゃないの? こんな大きなダイヤは長い間質屋をやっているけど、見たことがないもの」

光にかざして上から下から眺めていたが「専門の鑑定士に見てもらったほうがいいよ」と冷たく言う。

ガラス玉とダイヤの区別がつかない質屋なんてとお米さんは内心がっかりしてしまった。

スーパーで買い物ができたことで、みんな少し元気が出てきたようだ。あっちではお料理、こっちでは掃除をしていた。

「誰か和歌さんのオムツ取り換えてあげてよ」

「イヤよ、自分だってオムツしているのに」

「良かったね、口だけは達者で」

「自分でできることは自分でやるのよ」

「体が汚れていて気持ち悪い」

「今までやってもらっていたのだから、自分でできるでしょう」

「今までできないからやってもらっていたのでしょう」

「やってみるの、手ぐらいなら自分で拭けるでしょうから」

みんな今までやれなかったことにも少しずつ挑戦し始めた。