敬一さん、心筋梗塞にて意識を失う

心臓は1日に約10万回拍動している。人の体の中で最もエネルギーの素、つまり酸素を必要としている臓器の一つだ。

心臓の拍動で最も重要な働きをしているのは、左の心室、つまり左室(左心室)である。左室は心筋の弛緩・収縮によって全身に血液を送っているのだ。臓器は細胞によって構成されているが、その細胞がブドウ糖のような栄養源をエネルギー源として利用する場合には、大量の酸素が必要となる。その酸素を、人の体の細胞は動脈血から得ている。

心筋は冠状動脈という動脈から酸素が供給されている。冠状動脈は左と右の2本あり、左は前下行枝と回旋枝に分かれ、主に左房、左室側、心臓の約3分の2の部分に動脈血を送っている。右は右心系に血液を供給している。

敬一さんの心筋梗塞は左冠状動脈の起枝部、つまり根元に近いところが動脈硬化によって詰まり、血が流れなくなってしまったことによって起こった。動脈が詰まるということは、簡単に言えば、詰まったところから先は血が流れないということになる。血が流れないから、酸素が送られない。酸素がないから心筋の細胞が酸素不足になる。

心筋の細胞に酸素が送られないと、それらの細胞の機能は著しく低下し、その時間が長くなってしまうと、細胞は壊死(えし)、つまり死んでしまうことになる。脳細胞では5分以内に血流が戻らないと壊死を起こすが、心筋細胞は、約20分以内に血液の流れが回復しなければ、心筋壊死を起こしてしまう。

敬一さんの心臓は左室のおおよそ半分が壊死を起こして機能を失ってしまい、しっかり収縮できなくなってしまったのである。心臓は血流を全身に流すことが最も重要な機能である。左室は動脈の血液を送るポンプの働きをしているので、とりわけ重要である。