まとめと今後の課題

私の現在担当する講義・演習において、どういうタイミングでどういう手法でAL的要素を組み込むか。そのアイデアを今の私は持ち合わせていない。これが今後の課題であるのは言うまでもない。それ以外にも、少なくとも2つの課題があると私は考えている。

第1の課題は、1つの講義に複数のルーブリックを活用する可能性の模索である。たとえば、あるルーブリック評価で安定的に高得点を獲得できるようになった学生に対して、よりハイレベルなルーブリックを用意する必要がある。その際、必然的に成績評価も複雑化することになるが、それを合理的かつ客観的に運用しなければならない。1つの可能性として、複数の短期ルーブリックを作り、それを集約する形で長期ルーブリックを上手く作成できればこの課題は克服できるかもしれない。

第2の課題は、せっかくある講義を通じて学生たちが身につけたであろうスキルが他の講義などで活用されているかどうか、その追跡調査する術がないことである。既にこれとは別文脈の追跡調査を行っているが、これに関連して興味深い実践報告がある。

中東雅樹と津田純子は、新潟大学経済学部1回生対象の講義において、レポート作成上のスキルを段階的に向上させる指導法を開発・実践した※注2)。この指導法のポイントは2つある。

1つ目は、一旦完成したレポートを発表会でプレゼンさせ、それを踏まえて受講生間でチェックシートを用いて相互チェックをかけることである※注3)。2つ目は、一旦完成したレポートを3・4回生によって添削させることである(そのために、添削アシスタント育成プログラムを稼働させている)。

これによりレポートの内容面で大幅な改善が見られたのと同時に、この講義に関与する者にさまざまな気づきが与えられることを示唆している。具体的には、当該講義の受講生においては他者に見せることを意識したレポート作成に取り組めることと、上回生においては他者のレポートをチェックすることで内省する機会を提供できることである。

※注1)反転授業に関する理論的基礎や実例ついては次の文献が詳しい。森朋子「【コラム】反転授業―知識理解と連動したアクティブラーニングのための授業枠組み―」松下佳代・京都大学高等教育研究開発推進センター(編)『ディープ・アクティブラーニング』勁草書房、2015年、pp.52-57。森朋子「アクティブラーニングを深める反転授業」溝上慎一(監修)・安永悟・関田一彦・水野正朗(編)『アクティブラーニングの技法・授業デザイン』東信堂、2016年、pp.88-109。

※注2)中東雅樹・津田純子「主体的な学びを促すアカデミック・ライティングの段階的指導法の開発」『名古屋高等教育研究』第16号、2016年、pp.305-324。

※注3)大島弥生の実践報告では東京海洋大学海洋科学部1回生対象の講義において、コメントシートを活用している。大島弥生「〈実践報告〉大学生の文章に見る問題点の分類と文章表現能力育成の指標づくりの試み:ライティングのプロセスにおける協働学習の活用へ向けて」『京都大学高等教育研究』第16号、2010年、pp.25-36。