三の巻 龍神伝説の始まり

「余を恐れるな。それに余の后となればそなたの里を守るのを天が御許しになる。天上界の理に背く事はない」

「えっ?」

「地上界に居る全ての命を殺める事は出来ぬ」

「では、父上様や里の武人は……」

「良き策を考えて、何とか仇を打てる様にすること。里村を浄化し、誰にも入らせない様にするのは叶えられるやも」

白龍は白銀の光を放ち、清姫と共にその場から姿を消した。

龍神守の里に阿修の兵が押し寄せ、またたく間に里の武人と雷神丸、風神丸は四方八方から放たれた矢や槍に突かれ息絶えた。和清は数人の阿修の武人に囲まれると、身体に無数の槍を突き刺され絶命した。保繁はその様子を館の上座に座って、酒を飲みながら見ていた。

「ふふふ! 呆気ないのお!」

「保繁様。嫡男の羅技と二人の姫の姿が見当たりません。それに里の民も一人残らず消えています」

と家臣が言うと、さらに別の一人が走り寄り、

「屋敷の後ろに神殿らしき建物が焼け落ちています。その真裏につり橋らしき残骸があり、川幅が広くて渡れません。他にも大きな木の橋が落とされていました。我等が来る前にこれらを落としたのでしょう……」

保繁は思わず立ち上がって足元へ唾を吐き、悔しそうな表情をにじませた。

「ちっ。羅技という生意気な若僧。奴の衣を引き裂いてまる裸にしてやろうと思っていたのだが。それに、あの巫女姫はわしの側女にし、末の姫は一番手柄の者に与えようと考えていたのに。惜しいことをしたものよ。しかし、わし等が里を攻めて来ることを何故知っていたのか?」

家臣の一人が外を指さすと、

「あれは幸姫の犬ではないか? まさか? 幸姫が犬を使って知らせたか」

保繁は状況を理解した。しばらくすると、別の家臣が和清や里の武人達の額飾りを持ってきた。

「これじゃ! わしはこの翡翠の玉が欲しかったのじゃ! まあ良い。この里には塩が採れる湖も有る。先ずは勝利の雄叫びを上げるのだ」

阿修の兵達は勝鬨の雄叫びを上げた。

数日後、森宮の奥深い森の中で、羅技は重使主と仲根を相手に木刀で立ち合いの稽古をしていた。

「姫様。もうお止め下さい」

重使主や仲根が立ち合いをしようとせず、逃げまわると、

「何時もなら我にかかって来るのにどうした? さあ、かかって来い」

重使主と仲根は手に持っていた木刀を腰に納めるとその場に土下座しました。

「もうお止め下されませ。羅技姫様。お怪我をされると和清様に申し訳がたちません」

「我は男じゃ! 羅技で良い。姫と申すと容赦はせぬ」

「ははは! 威勢の良いお姫様だな!」