【前回の記事を読む】【小説】羅技「我は帰らない!鳳炎昴龍様の妃になる!」

外伝二の巻 鳳炎(ほうえん)(こう)(りゅう)の愛

鳳炎昴龍は千世から龍玉を受け取ると、黄金の光を放ち、龍体に変化しました。すると、鳳炎昴龍の身体は痛々しく変わり果てていた。角は折れ、所々鱗が剥がれ落ち、龍の一番大切な尾もなくなっていた。

「兄上様、そのお姿は」

「ずい分前に血まみれで天上界に帰って来たことがあったであろう」

「はい。兄上様はあの日以来、床に伏せられて、お父上様が何があったと聞かれても、兄上様は口を閉ざされて理由をお話しになりませんでした」

「あの時、父上にお話しすると怒り狂われて何をなさるかわかっていた。余はそれを恐れ、沈黙を守ったのだ。そして天にも、ムラ人達に御自ら手を出されぬ様にお願いしたのじゃ」

鳳炎昴龍はその時のことを全て話した。千世は鳳炎昴龍に寄り添い、はらはらと涙を流し、鳳炎昴龍の言葉にそこに居る者は涙を浮かべた。紗久弥姫は青龍に抱き付くと大声で泣き出した。

「本来なら龍王は兄上様がなるべきなのに、余はとても心苦しく存じます」

「このわたくしが悪いのです。鳳炎昴龍様に顔を合わせるのが辛くて、優しく呼びかけられましても龍珠の中から怖くて出られませんでした。羅技姫様が龍珠を胸に抱かれ、心の中でわたくしにお話しかけられました。その一途で優しいお心に癒され、龍珠より出る勇気を頂きました。ご免なさい鳳炎昴龍様」

と千世は言った。

「龍王様。千世殿も幸と同じ様に再生分割の儀式が出来ますか?」

羅技は幸姫と同じ様に、千世の魂を自分の身体に入れて再生分割の儀式が出来るように龍王にお願いした。

「駄目で御座います。羅技様のお身体に、もしものことがあれば、それこそ取り返しが出来ませぬ」

「心配に及ばぬ! このじゃじゃ馬姫は頑丈な身体をしている。いつも余と追いかけっこしておるのじゃ」

と赤龍は口を挟んだ。

「なりませぬ。羅技様は普通のお身体では御座いません。お腹にやや子がおられます」

「やや子。千世殿。今、何と申された? やや子ですと?」

赤龍は驚いて羅技を見た。

「羅技? そなたの腹に余のやや子が居るのか?」

「三か月位におなりになるでしょう! 羅技様の胸に抱かれた時に直ぐ分かりました」

赤龍は羅技の腹をそっと撫でた。

「大事ないか? やや子は大丈夫か?」

「アハハ! くすぐったいぞ! 止めてくれ」

羅技は赤龍に腹を摩られて思わず笑い出した。すると、なおも摩る赤龍の頭を殴った。

「赤龍! 止めろと言うのに」

赤龍は羅技を抱き上げると、羅技は観念した。

「フフフ! その様子なら大事なかろう!」

龍王は言った。

「龍王様、私が再生分割の大役を務めます! 青龍様? 良いでしょ!」

「そなたは何を言うのか? あの儀式は相当きついと聞くぞ? 姉上様も二日間程床に伏せられておられたと言うのに……」

「フン! やってみないと分からないわ! それに私は今まで病気にかかったことなどないのよ!」

「すまない。余は千世が傍に居てくれているだけで充分じゃ」

「紗久弥姫様のお気持ちだけ頂戴致します。鳳炎昴龍様が私の足になって下さいますから」

「だーめ! ねえ羅技姉上様!」

「紗久弥や幸達と一緒に花園で駆けっこしたりして遊べたら楽しいぞ! 遠慮されるな! 我も一緒に行き、天に紗久弥の身体に負担をかけることがない様に口説いてみせる。我の身体に負った傷跡もなくなったので千世殿の足もきっと治るであろう!」

「な、何じゃ? 天を口説くとは?  尋常な物言いではないぞ。羅技、言葉を慎め!」

赤龍がたしなめた。