榎並城の広間では諸将が集い、熱気に満ち溢れる中、さっそく軍議が開かれた。

まず一族の長老である三好宗三が座の中央に広げられた絵地図を鉄扇で指し示しながら策を披露した。ちなみに三好宗三とは晴元様の重臣で、かつて長慶様と敵対した三好政長その人である。

「石山本願寺を迂回して南下し、阿倍野、天王寺辺りで東に転じ、大和川沿いを進み、高屋城を目指すというのはいかがであろう」

宗三は儂と同い年と聞く、出家して家督も息子の政勝に譲ってはいるが、顔に皺も認められず、まだまだ生気に満ち溢れている。

三好之虎が宗三の策を受け、

「それがしもそれが宜しいと存ずる。さすれば住吉大社辺りまで進軍しているはずの畠山総州家の次郎様、和泉守護代の松浦殿とも天王寺辺りで合流できよう」

畠山総州家の次郎様とは、応仁の兵乱以来、二流にわかれている名門畠山家のうちの一流の当主である畠山尚誠のことである。ちなみにもう一流の畠山尾州家の当主は紀伊・河内・越中の三国の守護である畠山政国で、この時、氏綱勢に加わっている。

そこへ伝令が駆け込んできた。

「河内高屋勢は既に高屋城を発し、大和川沿いを北上中。その数はおよそ一万五千」

安宅冬康が反応した。

「それは好都合。城に籠られては面倒と思うておったが、出て来たのであれば幸い。大和川を北上とあらば、おそらく阿倍野、天王寺辺りで我らと遭遇いたしましょう」

十河一存が続けた。

「数で劣るというに、のこのこ出で来るとは敵もたいしたことはないのぅ。野戦かぁ。腕が鳴るわぃ」

まだ若い一存は血気盛んに目を輝かせている。

一通り意見が出尽くしたところで長慶様が締めくくった。

「宗三殿の申されるように阿倍野、天王寺辺りまで南下し、そこで和泉衆と合流いたそう。さすれば数のうえでは我らが俄然優位。敵を取り囲んでひと揉みに潰してしまいましょう」

一同は「応っ」と応えた。