二  天文十五年(西暦一五四六年)

兄弟四人は手に手を取り合って再会を喜び、近況などを語り合った後、長逸と儂と甚介を交えて軍議となった。

「いかがであろう。兵らの士気が高いうちに一気に和泉・河内へ攻め入ろうではないか」

元服したばかりでまだ若い三弟の十河一存は先手必勝の策を主張した。

「応よ、又四郎の申すこと、最も。先んずれば即ち人を制すじゃ」

長弟の三好之虎は〈孫子の兵法〉を持ち出し、弟の一存に同調した。

「それはいかがなものか。地を固めぬうちに攻め込めば背後を突かれる恐れがある。まずはこの摂津を抑えることこそ肝要と思うが」

之虎より一つ年下で次弟の安宅冬康は、はや智将の片鱗をうかがわせる慎重論を展開した。

下座に控える儂ら三人も意見を求められ、「まずは摂津の足固めを……」と思っていた儂は、冬康に賛意を示した。

その間、目を閉じてじっと皆の意見に耳を傾けていた範長様は静かに目を開き、そして口を開いた。

「皆の申すこといちいち最もなれど、神太郎の申す通り、年内は足元を固めることといたそう。そして年が改まったら京を目指す」

と、安宅冬康の意見を採り、最後に語気を強めて、

「その時は又四郎、存分に暴れまくれ」

と、又四郎こと十河一存を鼓舞するのを忘れなかった。

「応っ」

一存は『心得た』とばかりに若い目を輝かせて応じた。