のちに疑いを持たれた妻がしたことはただ一つ。頭を痛がっている夫、常に苦しんでいる夫を見かねて、刺したことだった。倒れた夫を抱きしめ、家の外に向かって叫んだ。「夫が刺された!」と。凶器のナイフは転がっていたが、他人の指紋しかなかった。他人の足跡がいくつも部屋にあった。

実は、前夜に強盗に入られたのだが、通報しなかったのだ。これを、夫のために利用した。夫と、それと、自分と子どもの将来のために……。強盗が脅したナイフで彼を刺し、あたかも殺人は強盗によってなされたようにした。夫は、最高の笑顔で言った。「ありがとう」と。

妻は、心の中で『ごめんなさい!』と言い、泣き叫んだが、警察は違う意味でとらえた。その後、盗みと暴行を重ねた強盗は捕まり、殺人を否定しながらも、強盗殺人の犯人とされ、死刑判決を受けた。

おもしろい脚本に仕上がったと、俺は自分ながらに思った。退屈な毎日から、また映画の世界に戻れる、と思った。大きな期待を胸に、監督に脚本を送った。

しかし、監督からの返事は、『採用できない』と、いうものだった。俺は、驚いた。理由は、『いい内容だが、映画向けじゃない』と、書かれていた。すごくショックだった。監督から見放された気分だった。

今はただ、同じ脚本を、他の人に持っていく気にはなれなかった。監督に嫌われたか、脚本が悪かったか、真相を確かめたかった。