【関連記事】JALの機内で“ありがとう”という日本人はまずいない

消された年次休暇「シュレミール」のゲーム

起こった事実

前回の【事例7】で、工場における化学プラントの定期修理についてご説明しました。

今回もその定期修理に関連するお話です。

当時、私が入社した会社では「新入社員は現場を知らないと話にならない」という考えから、技術系の新入社員は一部を除いて、全員が工場の配属になっていました。私もある工場に配属されたわけですが、その入社2年目に前回の【事例7】が起こったという次第です。

この話も、同じようなころに起こったものです。

当時、工場には担当が分かれたいくつかの設備部隊があったのですが、私の配属されたところは、その工場内に多数ある化学プラントのうち、ある二つの大きな化学プラントを担当する部署でした。その二つの化学プラントは、各々4月と10月に定期修理を行っていました。

【事例7】でお話ししましたように、定期修理期間は約1ヵ月で、そのあいだには土日返上で工事や修理、設備の検査などが行われます。そのような大規模な作業ですので、約半年を掛けて1回分の定期修理の準備をしていました。このため、私の所属していた部署では、4月に一つのプラントの定期修理が終わると、定期修理終了の翌日には、早くも片方のプラントの10月に行われる定期修理の第一回全体準備会議が開かれるといった具合で、休む間もなく多忙を極めていました。

さて、4月の定期修理を目前にしたときのことです。

定期修理が目前に迫った時期ですので、部署全員がいつものように忙しく準備に追われていました。そんなとき、私に困った問題が生じました。といっても大きな問題ではなく、前年末に運転免許証の更新を行ったのですが、住所変更手続き書類に不備があり、警察の交通課から3月末までに必要書類をもう一度持ってきてくださいと言われていたのです。郵送はダメということでした。いまは土日でもそういった手続きができるようになっていますが、当時はそういった手続きは平日の昼間しか受け付けていませんでした。すなわち、勤めている人は、勤務時間中に対処しなければなりませんでした。

また、私の勤める会社では、工場に従業員が一度入場すると勤務時間が終わるまでは工場の外に出ることは許されず、どうしても用事で外出しなければならないときは、上司に申請書を提出して許可印を押してもらわねばなりませんでした。すなわち、勤務時間中に「ちょっと歯医者に行ってきます」と言って外出するといったことは、基本ルールとして許されていなかったのです。

しかも、工場そのものが町からバスで1時間程度かかる場所にありましたので、もし上司に許可をもらって、町なかにある警察の交通課に行ったとしても、短時間で戻ってくることは不可能でした。

前置きが長くなりましたが、結局私は警察の交通課に必要書類を持っていくというだけの用事のために、年次休暇を取得するしか方法がなかったのです。しかし、前述のような超がつく多忙な状況が続いており、なかなか1日の年次休暇を取れる日を捻出することができず、困ってしまったという次第だったのです。

そこで、私は一計を案じました。平日の3月XX日に年次休暇を取って、警察の交通課に書類を持っていくことを決めて、2月の初めから、そのXX日に会議が入れば、それを別の日に変更し、また小さな工事が入れば何とか工程を工面し、とにかくXX日には年次休暇が取れるように配慮を重ねました。さらに、職場の人たちや仕事の関係先の人たちにも事情を説明し、3月XX日に仕事が入らないように最大限の努力をしたのです。そして、年次休暇は、前日までに口頭で上司に伝えて許可をもらうというシステムでしたので、2月のうちから、私は上司のA班長に事情を話して年次休暇の許可をもらっておいたのです。

ここまで読んで、おそらく、ほかの職種の人や若い方は「たかが1日の年次休暇を取るだけで、なんと大層で融通の利かない話なんだろう。この話は本当だろうか?」と疑問に思われることと思いますが、当時の地方にある化学工場というものは、こんな状況だったのです。