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消された年次休暇「シュレミール」のゲーム

どのように解決したらよいのか

さて、この話は、ゲーム分析を行うより、前記の①②を考えると、組織が健全に機能しているのかという組織論で考えたほうが良さそうな事例ですが、ここでは組織論ではなく、あくまで心理学で人間関係を考えてみたいと思います。ただ、この事例をゲーム分析で考えようとすると、A班長が前記①②の対応をとった原因が不明ですので、さまざまなゲームが想定されてしまいます。

そこで、ここでは「シュレミール」というゲームが行われたとして、お話を進めたいと思います。専門家のなかには、この事例を「シュレミール」として捉えることに異議を唱える方もいらっしゃると思いますが、A班長が前記①②の対応をとった理由が当事者の私にもさっぱりわかりませんので、一つの仮説としてご容赦をいただきたいと思います。

さて、シュレミールとはどのようなゲームなのでしょうか? 専門書から引用をしてみましょう。

『シュレミール(Schlemiel)というのは、東ヨーロッパのユダヤ人社会で通用するイーディッシュ語の俗語で訳しにくい独特の意味を持っていますが、「うすのろ」というような人のよい間抜けな人を指します。』(杉田峰康 他『ゲーム分析 Transactional Analysis SERIES 4』)

例えば公的な立食パーティーの席で、X氏がバイキングの料理を運ぶ途中で女性のYさんとぶつかってしまい、料理をYさんの大切なドレスにこぼしてしまったとします。大切なドレスを汚されたYさんは当然怒りますが、公的なパーティーなので怒りを表面に出すこともできません。そこで、内心は怒りに打ち震えながらも、表面上はX氏を許す態度を取り続けます。一方、X氏はYさんに「すみません」と何度も謝りますが、みんなの前で何ともバツの悪い思いをします。そこで、X氏は、それから、飲み物をうっかりこぼしたり、テーブルにぶつかったりする行動をとり、さらには周りの人に「自分はあわて者なのです」と同じ言葉を何度も繰り返します。これが、シュレミールというゲームなのです。

X氏は、このような馬鹿げた振る舞いや言動を繰り返すことで、彼はああいう人なのだと周囲に思い込ませて、周りが自分を許さないわけにはいかないという状況をつくり出すのです。すなわち、このように相手の非難をかわす行動や言動を繰り返すことによって、自分が非難されない状況をつくり上げることができるわけです。これが、シュレミールというゲームを行うことで、X氏が得られるメリットなのです。