第7章 愛人宅訪問

「江藤さん、どうしてあなたの夫で私の実の父親であった江藤光夫が死亡した時に、私達には連絡してもらえなかったのですか? そのせいで、親の死体を供養することができなかったのですよ」

それを聞いた愛人は、口調を強めてこう言った。

「死んだ夫は、生前に何回も念押しをして私に懇願しました。『再婚前の最初に結婚した時の家族には、絶対に俺が死亡した事を連絡しないでくれ』と。

だってそうでしょう。離婚調停をするからといって自分に内緒で家族全員がアパートから引っ越しされてみなさい。夫は、どれだけ心の中を傷つけられた事でしょう。そんな仕打ちをしておいて、死亡した時だけ供養しにくるのは、夫に対する冒涜(ぼうとく)と考えられてもおかしくないです」

愛人の返答を聞いて、雄二はさらに強い口調で返答した。

「あなた、何をおかしなこと言っているのですか。あなた達が不倫をしたから私達の家族がメチャクチャになったのですよ。あなた達のした行動が私達の家族を破滅させた真実を認めないのに、死亡した時だけ供養するのは元父親に対する冒涜と考えるなんて、常識的考えを逸脱しているとしか思えない」

「認めているじゃないですか。夫が生前に元妻のひろみさんに対して、裁判所で決定された慰謝料を全額支払っています。償いは済んでいる。だから、堂々と夫の気持ちを私が代弁しているわけです」

「あなたが元父親を愛していたのは分かりました。しかし、不倫した相手から慰謝料を全額支払ってもらっても、された元妻および元子供には精神的苦痛がトラウマとなって死ぬまで残るのです。お金だけでは絶対に償うことができません。あなたはそんな常識を体験していないから、さっきみたいな自分に都合が良いことを言えるのです」

愛人はそれを聞いて、強い口調で返答してきた。

「私はあなたより長く生きてきて、あなたより苦しい体験もいっぱいしてきている。それなのに若いあなたの方が、年上の私より精神的苦痛を多く体験していて常識的な考えを理解しているように言われるのは心外だ。逆に、あなたが私に申し訳ないと謝りなさい」

それを聞いた私は、愛人に対して怒りを覚えたので雄二に代わって話し始めた。

「なら金子さん。同世代の私ならあなたと同じ、いやそれ以上に精神的苦痛や肉体的苦痛を体験しているから心外と思うことはないでしょう。それでは金子さんに質問しますけど、光夫はあなたに対して大声を出して威嚇したり、気にいらないと言ってあなたの身体を叩いたり蹴られたりみたいな事をされた体験はありますか? 答えてください」

「もちろんありません。そんな事をされたなら、たとえ夫でもこの家から放り出します」

「金子さん、あなたは非常に幸運な人だ。最初に光夫と結婚した私と子供達は今、例えて言った事を日常的にされて精神的苦痛および肉体的苦痛で耐えられなくなり、本当に光夫を殺そうとさえ考えた体験があります。

だがあなたにはそんな体験がない。だから、他人に精神的苦痛や肉体的苦痛を無意識に与えても、あなたは苦痛として理解できないのです。そして、不倫も別の人にされた体験がないのでしょう。だから自分で意識的に不倫しても、苦痛として理解できないのです。何か私に反論はありますか?」

愛人は黙ってしまった。その状況を見てさらに私は質問した。