「金子さん、あなたは自分が命をかけて出産した子供が、親の自分より先に死亡した苦しみや悲しみを体験した事がありますか?」

「私は出産した経験がないから分かりません」

「金子さん、あなたはやはり非常に幸運な人だ。私は体験したことがある。光夫があなたと再婚した後で、実子の娘の本葬に参加したり遺産相続手続きをしたりしていたのをあなたは知ることができたから、私が本当の話をしているのだと分かるでしょう。

実の子供が親の自分より先に死亡した苦しみや悲しみは、どんな言葉で表現しようとしても絶対に自分が感じてしまったいろんな思いなどまで表現できません。そして、そんな思いを私は誰にも話すことができずに落胆していた状況でも、光夫は実子の娘の本葬が終了した後にすぐ、実子の苦しみや悲しみを言葉や態度で表現すること無く、実子の娘の遺産相続について私に質問してきた。金子さんが、もし私の立場だったならどんな感情をもたれますか?」

「私はそんな体験をしたことがないので分かりません。ただ、夫が黙っていたり態度で表現することが無かったのは、実子の本葬を邪魔するといけないと思ったからだと考えます。そして、本葬終了後に実子の遺産相続について質問をしたのは、あなたと話し合う機会がそのあとで行われる保障が無いと思ったからだと考えます」

愛人からの返答を聞いて、私は怒りの感情が先ほどよりさらに強くなった。

「ならば、どうして光夫の全遺産に対する相続調停で相続対象者である実子の雄二に、何の承諾もなく休眠口座の残高だけ残してすべて金子さんが相続する手続きを行ったのですか? また第2回目の相続調停の時に、実子の雄二が相続対象者であることが分かったはずです。それなのに、改めて遺産分割協議をやり直す事を拒否している。それはなぜですか?」

「もちろん夫が言っていた『再婚前の最初に結婚した時の家族には、絶対に俺が死亡した事を連絡しないでくれ』の遺志を守ったから、そちらに連絡しなかったのです。

そして、その時にあなた側に相続対象者がいるなんて夫から聞いていませんでしたし、法律について私は無知なので、遺産相続調停の時にあなた達の対応をしてくれた弁護士に、夫の全遺産の相続について相談して指示されたとおりに手続きを行った。

そして、相続調停には弁護士が代理に出席しているので、話の内容については分かりません。確定調書はいただきましたから結末については分かっています」

愛人の返答する態度には、まったく悪い事を行ったという様子が無かった。