なぜゲーム分析で、職場の人間関係の罠から逃れることができるのか?

まず、ゲーム分析の基盤になる交流分析について、簡単にご紹介したいと思います。

交流分析とは、1950年代にアメリカの精神科医であるエリック・バーン(Eric Berne)が創案した、精神や行動についての理論であり、その応用である心理療法のことです。具体的には、私たちの思考・感情・行動などを記号や図式、わかりやすい用語などを用いて定義し、相互関係を表すことで、自分と他人との関係を客観的に把握することができる分析手法といっていいでしょう。

その分析を通して、自分と他人とのあいだで行われる特定のパターンに気づき、それを改善していく方法について知ることができます。交流分析は、構造分析、交流パターンの分析、ゲーム分析、脚本分析の4つの分野に分けられます。本書では、このうち、ゲーム分析に焦点を当てて、職場の人間関係におけるストレスを分析していきたいと思います。

前述のように、ゲームというのは「裏に『罠』や『インチキ』といった否定的な面を内蔵した、人間関係の駆け引き」と定義され、私はこれを「人間関係において、相手にストレスを与える目的で仕掛けられる罠」と解釈しました。

そして、「ゲーム分析」とは、「どのような罠が仕掛けられているのかを解析し、人間関係のストレスを明らかにすること」なのです。例えば、次の課長と部下の会話は、ゲームとして行われているものです。

部下 「いままで課長とあれだけ相談したじゃないですか。いままで話したことをそのまま部長にぶつけたらいいんですよ」

課長 「俺もいままで部長には意見を言おうとしたんだよ。だけど、相手にしてもらえないんだよ……」

部下 「毎回、無視することなんて、できないですよ。こちらが真剣に言えば、ちゃんと聞いてくれますよ」

課長 「しかし、部長も忙しいから、時間があまりとれないしなあ……」

部下 「今日は空いてることは、さっき調べたじゃないですか。とにかく、やるだけやってみましょうよ」

課長 「俺にも立場があるんだからさあ。あんまり、無理をさせるなよ」

部下 「いまさら、何を言ってるんですか。そもそも、課長が最初に『部長が悪い。けしからん』と言ったんじゃないですか」

課長 「でもなあ。俺の立場も理解してくれよ」

部下 「そんなことなら、もういいですよ、課長には頼みません」

課長 「そんな言い方はないだろう。君にはわからないだろうけど、会社というものは、いろいろな立場というものがあって成り立っているんだよ。俺の立場も理解してくれないと困るんだよ」

部下 「課長、今日こそ部長に文句を言いに行きましょうよ」

課長 「でも、まだ何を話すか、まとまっていないし……」

この課長は、過去に何かあった際に、自ら「部長が悪い。けしからん」と部長に責任を転嫁したものと思われます。しかし、いざその話を部長にする段になると、臆病風に吹かれてしまい、「話す内容が決まっていない」とか「部長は忙しい」と逃げ腰になり、そして「会社というのは、いろいろな立場があって成り立っているんだ」と部下に説教まで始めて、部長との話し合いを避けようとしています。

これは課長が「会社というのは、いろいろな立場があって成り立っているんだから、俺の立場も理解してくれよ」と、自分の立場は大変なんだということを主張して、相手に同情させることで、責任を逃れようとしているのです。

つまり、課長の裏の目的は、「自分の立場は大変なんだ」と主張して自分の立場に対する部下の同情を引き出すことにあるのです。これによって、部長を説得するという責任を逃れるとともに、その責任を部下に押しつけることができるのです。