家庭環境は悪化の一方だった。私は母たちがいない隙に家のあらゆる引き出しやバッグの中から金目のものを探した。たまたま置き忘れていた通帳に数十万円入っていて、全部下ろしたこともある。それでもそんなお金、あっという間になくなる。向かいにあった祖母の家ももちろん物色の対象になった。

祖母が泣きながら仏壇に手を合わせ、「どうか風子がお金を取りませんように」と拝んでいるのを聞いた。心が締め付けられる思いがしたが、仕方なかった。不良の世界も生きていくのにお金が必要なのだ。

同じように非行に走り始めた弟も夜出歩く生活であり、時々夜の街ですれ違った。金を出せ、とよく脅していたので、弟は私と目が合うと黙って財布を渡した。一度包丁を持ち出し、弟に突き付けたことがある。詳細は覚えていないが、家族から見ても私は「怖い」存在だったようだ。

私は友達の家を転々としたり、野宿をしたりを繰り返していたが、たまに家に帰った日には大変なことになる。母も追い込まれていたのだろう、私にありとあらゆる嫌がらせをした。私がシャワーに入れば、お湯を止め、寝れば布団をはぎ、引き出しの中の手紙を読んで交友関係を探り、バッグをあさる。つき合っていた人に使用後の下着を送りつけたり(私の汚い部分を見せつけ、別れさせようとしたと思われる)、友達の家に手あたり次第電話し、私を家に上げたら誘拐罪で訴えるぞと脅したりもしていた。

もはや狂乱状態だ。そうやってせっかく見つけた数少ない居場所を奪っていく。

限度を超えた母の行動に怒りが頂点に達し、取っ組み合いのけんかになる。殴ったり蹴ったりしたが、何と言っても気が強い母。負けていない。制服を外に投げ捨てたり、窓ガラスを割ったり。家のものもたくさん壊れていく。もはや私の居場所はなくなった。

なんで私だけ。誰もいなくなった家のクローゼットの中で、家にあったありったけの薬を並べた。死のう。本当は母を殺そうと思った。でもうちにはまだ幼い妹がいる。私が1人っ子なら母を刺していただろう。しかし私だけの母ではないのだ。

泣いて泣いて薬を1つずつ飲み始めた。そのまま泣き崩れたのか、薬の副作用なのか、眠ってしまった。夕方になり、静かに目が覚めた。ふと小学生の時、火事で亡くなった同級生のことを思い出した。あの時自分の命を大切にするね、と約束したんだった。ごめんね。もう死のうなんて思わないよ。