しかし、寝込んでいる間に留年が決まり、研究の先延ばしが決まったまま大学3年生を迎え、ゼミに配属されることとなった。ここからが人生が変わる転機となる。

当時、最初はゼミに配属されても先生には怒られるし、人間嫌いになっていた私はゼミに寄り付かなかったが、同じゼミに配属された同級生の一人が心を開くのを手伝ってくれて、ようやくゼミに顔を出す決心をした。

「最近、あまりゼミに顔を出してないね。行こうや」

「まだいい。どうせ研究は来年だし」

「そんなの関係ないよ。行こうや」

彼は、ゼミ長を務めていたが、ただの責務ではなく、本当に私を不憫に思っていてくれたのだろう。おかげで私は初めて学生生活を満喫することができ、彼が飲み会に引っ張っていってくれたおかげでお酒の味も覚えた。実は私がお酒に強いことも、ここで初めて知った。

彼は、最初は私を優しく持ち上げてくれ、段々ゼミに慣れてくるとイジリを入れるという、面倒見の良い人物であった。ほかのゼミ生、教授も徐々に顔を出し始めた私を気遣ってくれ、初めて家以外で安寧の場所を見つけた気がした。

「そういえば、宇佐川は卒業研究何にするん?」

「まだ決めていない」

「早く決めたほうがいいよ。他の人の研究を引き継ぐなら教えてもらわんと」

ゼミ長を務めていた彼は、貴重なアドバイスをくれた。彼自身、先輩のゼミ生についていき、きっちり引き継いでいたらしい。

「確かにそのほうが質の良い研究はできそうだけど……」

私は、このゼミで何をやりたいのか見つけるのに苦労した。過去の卒業論文を見ても、さっぱり理解できず、足がすくんでなかなか一歩が踏み出せなかったのだ。結局、ゼミ長が卒業してから、彼の研究を引き継ぎ、ゼロからのスタートを強いられることとなった。