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しばらくすると、先生は私を投資仲間のコミュニティに入れてくれた。そこには、千夏もいて、なんだかいつもと違う、丁寧に皆に気配りをする彼女がいた。もちろん、千夏を含む皆が上手なエントリーをコミュニティで公開していて、私は公開するのに気が引けた。

そこで、他の参加者から「大陽線」「大陰線」について教えられたが、やはりわからず、千夏に、

「太陽線(間違い)と大陰線って何?」

と聞くと、丁寧に、

「陽線は為替のチャートの上りに付く赤い線、陰線はその逆で下がるときに付く青い線。大陽線は大きい陽線で、大陰線は大きく下がったときの線だよ」

と素人の私でもわかる、パーフェクトな回答をくれた。前述のアドバイスを含め、最後には千夏に聞こうと思わされた一番の出来事だった。私は、いつも事を急いてしまう。そして、相手の気持ちが想像できない。

千夏と毎日楽しく話すうちに、一時の「イケる!」という思いだけで、一度だけ、

「手取りがそこそこあるから(障害年金を含む)、うちに来ない?」

と彼女を誘ったことがあるが、

「まだ早いかな」

とかわされてしまった。千夏からしたら、同棲するには相手を知らないこと、そして、いきなりの誘いだったため、心の準備ができていなかったのだろうと今では推測する。

前にも同じようなことがあった。大学時代の告白だ。もちろん、あのときよりはまだ仲が良い状態ではあったが、恋愛を知らない私は、またしても先走ってしまったのだろう。大学時代と違うのは、予後が気まずくないということだけだった。

それほどまでに好きになっていった千夏から、ある日、頼まれごとをされる。何と、それはバイナリーの「集客」の権利を先生から買いたい、というものだった。要するに、バイナリーオプションの「生徒」を募集し、教えるビジネスだった。当然、生徒が集まるかどうかは、本人の力量に掛かる。Twitterで毎日宣伝し、フォロワーを集め、注目されるようになれば教わりたい人は現れる。「先生」はそう言った。その額は300万円で、二人で折半して買おう、というものだった。

私は初めて千夏に電話し、高く、可憐な声を初めて聞いた。彼女は、懇願していた。私は教えられるレベルじゃないので、断るつもりだったが、

「教えるのは私がやる。アキ君(私の呼び名)と二人でやりたい。儲けは折半」

と言われた。どうやら、千夏一人でも買える金額らしいが、ギリギリらしい。一人150万円、私は悩んだ。しかし、私は声の綺麗な人に弱いのか、またしてもOKを出した。先生にお金を手渡したときは、複雑な心境だった。