第四話 一枚の紙切れ

その後、マリファナの仲間からコカインを教わった。コカインは覚せい剤と同じように一時的に興奮に近い状態になる。コカインの白い粉を吸うと、マリファナとは比べものにならないほど、幸せな気持ちになり、自分が何でもできる強い人間になったような気がした。

マリファナのときと同じように、カルロスは一度でコカインのとりこになってしまった。朝、目が覚めるとまず、ベッドでコカインを吸った。そうしなければ一日が始められなかったのだ。しばらくすると、耐性がついてきてコカインがだんだん効かなくなり、たくさん吸うようになったので、一日分のコカインを買うお金が一月分の生活費と同じくらいになっていた。

コカインをやめられなくなったカルロスにとって、コカインを売ってくれる男は誰よりも大切だった。その男から麻薬ギャングの仕事をするように言われて、カルロスは喜んで仲間に入った。

仕事は、警察に見つからないように麻薬を運ぶことだった。仲間になってからは、コカインはいくらでもただで手に入る。十回運べば一回分もらえることになっていたからだ。カルロスはコカインが吸えればそれでよかった。

仲間に入ってから半年たったころ、カルロスは、目つきの鋭(するど)い男から呼ばれた。名前も知らないその男から、生きた子犬を使う計画を聞かされ、お前がその手術をしろと言われたとき、動物が好きなカルロスは思った。

(自分にはそんなことはできっこない)

しかし、断ればひどい目にあわされるにちがいない。へたをすれば殺されてしまうかもしれないのだった。

第五話 手術

カルロスは、子犬のおなかに黒い袋を入れる手術の準備中だった。今日は、とうとうフィオリーナが手術される番だ。フィオリーナは何も知らず、部屋の隅のケージの中にいる。そのときだった。

「カルロス! 犬の様子が変だぜ」

仲間の一人が、カルロスに向かって大声をあげた。この男は、アントニオと同じように犬を集めている男だったが、アントニオとはちがって、心の冷たい男だった。カルロスがケージをのぞくと、一ぴきのラブラドールレトリバーがぐったりしているのが見えた。この子犬は、三日前にカルロスがおなかの中に黒い袋を入れた子犬だった。

「また、失敗かよ。せっかくいい犬を集めてやってるのに、お前がへたな手術をするから、何びき集めてきても足りねえんだ。くそっ。獣医のなりそこないめ。お前のせいで、俺はもう一ぴき、犬を探してこなきゃならねえんだぞ。次も失敗したら、ただじゃおかねえからな」

男はフィオリーナの方をちらっと見て、部屋を出ていった。フィオリーナの手術はひとまず延期となった。カルロスはぐったりしているラブラドールレトリバーの子犬に抗生物質(こうせいぶっしつ)注射した。

よくなれば、子犬はフロリダへ送られる。そこで殺されて、おなかから黒い袋が取り出され、それを麻薬の売人が買う。子犬の死骸は警察に見つからないように埋められる。もし抗生物質が効かずに子犬が死ねば、おなかから黒い袋を取り出して、カルロスが別の子犬のおなかに入れるだろう。