第4章 フィオリーナからへロイーナへ

第一話 裏町 

フェルナンドが着いたのは、この国の首都だった。ここに来るまでに、持っていたわずかばかりの金を使い果たしてしまい、あてどなく歩いているうちに、大きな教会の前に出た。教会の石段に腰(こし)かけて、背中の袋から出してやると、フィオリーナは大喜びでフェルナンドの顔をペロペロとなめ回し、フェルナンドがくんできた水を長い時間かけて、おいしそうに飲んだ。

「お前もおなかがすいただろう。困ったな。これからどうしたらいいんだろう」

何も考えつかずにぼうっとしていると、いつのまにか、やせた白髪(しらが)の男がフェルナンドとフィオリーナを見下ろすように立っているのだった。

「いい犬だな。何という犬だ?」

白髪の男が聞いた。

「これはロットワイラーという犬だ。牧場で牛を追う犬さ。まだ、子犬だがとても頭がいいんだ」

「どこから来たんだ?」

フェルナンドが牧場のある地方の名前を言うと、白髪の男は、しばらく満足そうな顔でフィオリーナの頭をなでていた。

「この犬を売ってくれないか。金はたっぷり出すよ。これでどうだい」男は突然そう言うと、ポケットからたくさんの紙幣(しへい)を取り出した。フェルナンドはあまりの大金に驚(おどろ)いて声も出ない。

(これだけあれば、当分のあいだ食べていくのに困らない。このままでは、フィオリーナに食べさせてやることもできないのだから)

フェルナンドは決心した。

「いいだろう。俺の代わりに、かわいがってやってくれよ」

思い切って男の手にフィオリーナをわたした。男はフィオリーナを抱いて、足早(あしばや)に立ち去っていく。フェルナンドは名前を教えなかったことを思い出して、男の背に向かって大声で叫んだ。

「その子の名前はフィオリーナだよ」

男はふり向いたが、さっきとは別人のような表情だった。

「名前なんて、どうでもいいんだ」

怒ったようにそう言うと、人混(ひとご)みの中に姿を消した。