狩り

林の中を人々はさまよっている。林は誘惑する。

林は様々な宝物を隠し持っている。お菓子、缶詰、日用品、お茶、乾麺、香辛料……。人々は自分の欲しいものを捜し求めて林の中を歩き続ける。

たとえばコンビーフ。このステキなフォルム。なんて特別な形だろう。早くぜんまいのようなカギでくるくると巻き取って、缶を開けたい。

でも気をつけないと。危険な生き物がうろついている。それから低空飛行している監視カメラも厄介だ。この執着を気取られてはならない。舐めるような視線も隠さねば。あくまでも何気なく、いかにして彼らの裏をかくか、それが毎日の勝負。

誰かが私の後ろを通る。と、私はカメラの死角に入る。その一瞬をとらえて、コンビーフをガードルの中に押し込める。こんな時、ウエストがゴムのスカートは便利だ。すべてを奥の奥まで飲み込んで、なかったことにしてくれる。

しかし、すぐにその場を立ち去るのは禁物だ。しばらく品定めをするふりも忘れてはいけない。

……大丈夫。奴らは気づいていない。あとは私の独壇場だ。ハンドバッグに手鞠麩(てまりふ)、上着のポケットにピーナツバター、ウエストポーチに豆板醤、胸元にチューイングガム……。私の早業を見破る者はいない。

林は平穏そのものだ。収穫に満足して、林から野菜売り場の草原に出る。なんとすがすがしい眺めだろう。手招きする野菜たち。

好意的な彼らを横目で見ながら、私はおもむろに片隅に積んである国産のニンニクに近づく。

大体一つで百九十八円だなんて高すぎるのがいけない。バツとして一つ失敬せねば。しかしここは見晴らしのよい草原だ。

わずかな失敗も許されない。鼻歌まじりに私はニンニクに手を伸ばす。

犯罪? いや、これは犯罪ではない。もともと捕食には危険がつきものなのだ。危険を冒さず食うようになって人間は退化してしまった。人間は動物なのだ。食うためには狩らなければ。

……追っ手がすぐそこまで迫ってきた。しかし、奴ら鈍重なパート社員なんぞに私が捕まえられるだろうか?

否! もはや私はしがらみにがんじがらめにされた卑屈な人間などではない。私は敏捷この上ないインパラなのだ。

数ミリの差であいつらの攻撃を優雅にかわしてみせよう。そう考えるとあまりに愉快で口元から思わず笑いが洩れてしまう。

こらえればこらえるほど、その愉快が体の中で果てしなく増幅され、私はとうとう耐え切れず、こぼれんばかりに積まれたグレープフルーツの丘をよじ登り、その頂点に仁王立ちになって思う存分笑った。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『苦楽園詩集「福笑い」』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。